真冬に咲いた紅い花 「椿(つばき)

01/03/11


2001年1月26日撮影
場所:土屋薬局
撮影者:土屋幸太郎

寒椿。

真冬に咲く、真冬に咲いた紅い花。


20数年ぶりの豪雪にも負けず、
土屋薬局店内は 日中は暖房が入っているので、お花には最適な環境と言えましょう。

雪に閉ざされ、心細い気持ちになっているときに、
この紅い花を眺めると 心が癒されます。

花は こうして 古来から 私たちに愛されてきたのでしょう。


私は この「漢方コラム」を連載しているお蔭で、
お花や植物、空、夜空など 自然現象に興味をもってきました。

そもそも、皆様が読んでいる 「土屋薬局 中国漢方通信」は、
実は 二代目なのです。

一番と最初に ホームページをアップロードしたのが、1999年4月25日。

その時は、パソコン素人なりに、必死になって作成し、公開まで漕ぎつけました。


自分で作成したホームページが、世間に、
いや 日本中、ひょっとしたら 世界の果てまで届くと思うと もう胸が高まる思いでした。

ホームページがインターネットの大海原に漂い、
自分でクリックすると、ディスプレイには 自分のホームページが写る。

そこで、飲むビールは とてもおいしいのです。

サウナの後のビールよりも、うまいですよ。

が、しかし、そのうちに悲しくなりました。


「誰も見てくれない。アクセスしてくれない。。」

この悩みは、ホームページを管理していないと実感できません。



そうこうしているうちに、月日は流れ、昨年の7月にパソコンが壊れたので、
新しい パソコン(NECバリュースター)を購入しました。

せっかく、ニューマシンになったのだから、
ホームページも 新しく生まれ変わろう! ということで、
現在に至っております。


初代「土屋薬局 中国漢方津信」は、中途半端な 商品紹介は載せているし、
てきとうな 漢方情報はあるし、、、と どっちつかずになったことを反省しましたので、
方針を定めました。


「どうせ、誰も見てくれないなら 自分で作って 自分が面白いサイトにしよう!」

これが、基本方針ですね。

ただし、ホームページに載せる情報は、


@中国漢方 A山形ローカル情報 B中国

などに関することにテーマを絞っているつもりです。


そうしたら、そうしたら、
良いことがありました。


@憧れのインターネット登竜門の ヤフーに掲載された。
 (1年半かかって、達成しました)

A@ニフティの 「今日のビッピーズ」に掲載された。
 (これも、メンバーズニフティの時代から憧れていました)

Bアクセス数が伸び、知り合いにも 
 「本当に、土屋さんが作っているのですか?」 と誉められるようになったこと。
 (山形新聞の友人も読んでいて、
 「本当に、お前が 自分でやっているのか?」 と疑われています)


ということで、「椿」とは、関係ない話に飛んでいるのですが、
これからも この方針を守って 連載していきたいと思っています。



さて、本題に戻ります。

椿は 突然、ボトっと落ちます。




上の画像の左側の 「寒椿」を 駐車場に運んだのが、右上の画像です。

ちなみに、右側に咲いている 黄色い花は、「アプチオン」

ちょうど、雪もやみ、日も少し差していたので、
駐車場に 寒椿と アプチオンを運びました。

そのとき、椿の花の一つが ボトっと落ちました。


「ああ、、また 粗相(そそう)をやってしまった。。」

と叫んだら、母親が

「椿は、ボトっと落ちるから 縁起悪いんだ」

と 教えてくれました。


なるほど。


黒澤明監督の 「椿三十郎」 という映画があります。

三船敏郎さんと仲代達也さんが主演している 娯楽大作なのですが、
この映画でも 実は 「椿」が絡んでいるシーンがあるのです。


椿が咲き誇る 日本庭園で、
悪代官たちが なにやら ヒソヒソと話しています。

そのとき、椿が ボトっと高い所から落ちました。

慌てて悪代官たちは、障子を開けて

「なに!! 曲者(くせもの)か!」
と刀を抜こうとします。

そうして、よく見ると 椿が地面に落ちていました。

曲者(くせもの)が侵入したような音は、実は 椿が ボトっと落ちる音だったことが分かり、
「椿か!!」
と、安心して 悪代官たちは また部屋に戻っていきました。


私は、この映画を見て、

「うーん、、さすが 黒澤監督」
と、思いました。

三船敏郎が演ずる 「椿三十郎」 も魅力ありますが、
この庭園で 椿がボトっと落ちて、悪代官たちが慌てる描写は、
日本の心を 伝えています。





一面の銀世界に、紅色は美しさを増す。


「椿三十郎」 という 日本映画の傑作の後は、
寺田寅彦先生の随筆の話に 行きましょう。

寺田寅彦 1978年東京生まれ。

地球物理学を研究するかたわら、夏目漱石・正岡子規ら同時代の文学者と交流し、
自身も 俳句・随筆などで活躍する。
著書に 「寺田寅彦全集」(全18巻、岩波書店)がある。1935年 57歳で没する。


(参考文献: 「椿の花に宇宙を見る」 寺田寅彦・著 池内 了・編 夏目書房より)



店内の椿の写真を喜んで パシャパシャ撮ったは よいものの、
「椿」の写真だけでは 「土屋薬局 中国漢方通信」 には なりません。

今回、1月26日に撮影した 「寒椿」をテーマに展開するにあたり、
構想 約1ヶ月という 熟成を重ねています。


この前、熱海に 高円寺中医学研修塾OB会の集まりがあり、
朝の4時まで 盛り上がったのですが、
翌日 眠い目をこすって 毎日新聞 「日曜くらぶ」を読んでいたら 天の助けがあったのです。

その 「日曜くらぶ」には、「彩りを追って」 という
ドイツ文学者の 池田加代子先生が連載しているコラムがあり、
そこで 「椿」には、寺田寅彦先生が書いた素晴らしい随筆があることを知ったのです。

必死になって、地元の本屋さんを探し回りましたが、ぜんぜん分からなかったので、
はい、インターネットで 「椿の花に宇宙を見る」 という素晴らしい本を購入しました。


寺田寅彦先生は、私の敬愛する 中谷宇吉郎先生の恩師でもありますが、
その先生が 「椿」のことを 随筆にしていたので、
個人的には 何かの縁を感じています。

今回、じっくりと 寺田先生の随筆を読み、なおかつ 中谷宇吉郎先生の本を読み、
二人の師弟愛を感じたのでありましたが、では、紹介しましょう、 「思出草」より。





「落ちざまに 虻を伏せたる 椿哉」 


漱石先生の句である。


今から三十余年の昔、自分の高等学校学生時代に熊本から帰省の途次、
門司の宿屋で、
ある友人と一晩寝ないで語り明かしたときに、
この句について だいぶ いろいろ 論じ合ったことを記憶している。


どんなことを論じたかは 覚えていない。


ところが このニ、三年前、
偶然な機会から椿の花が落ちるときには俯向(うつむ)きに落ち始めても、
空中で回転して仰向(あおむ)きになろうとするような傾向があるらしいことに気がついて、
多少これについて観察し、また実験をした結果、
やはり実際にそういう傾向のあることを確かめることができた。


それで樹が高いほど、俯向きに落ちた花よりも
仰向きに落ちた花の数の比率が大きいという結果になるのである。


しかし低い樹だと、俯向きに枝を離れた花は 空中で回転する間がないので、
そのままに俯向きに落ちつくのが通例である。


この空中反転作用は、花冠の特有な形態による空気の抵抗のはたらき方、
花の重心の位置、
花の慣性能率等によって決定されることは もちろんである。


それで、もし虻(あぶ)が花の蕊(しべ)の上にしがみついて
そのままに落下すると、
虫のために全体の重心がいくらか移動し、その結果は、
いくらでも上記の反転作用を減ずるようになるであろうと想像される。


すなわち虻を伏せやすくなるのである。


こんなことは右の句の鑑賞には大した関係はないことであろうが、
自分は こういう瑣末(さまつ)な物理学的な考察をすることによって、
この句の表現する自然現象の現実性が強められ、
その印象が濃厚になり、
したがって その詩の美しさが高まるような気がするのである。

(昭和九年一月、東炎)





紅い花は、「寒椿」。黄色い花は、「アプチオン」
雪の白さをバックにすると、いっそう綺麗。



この寺田先生の随筆では、
椿が ボトっと、落ちるときを観察したことが 物理学的な立場から書かれています。

すなわち、椿が ボトっと落ちるときには、高い椿の樹からは、
クルっと回転して 「あおむき」に落ちるのが 通常であるが、
虻が 椿の 「しべ」に掴まっていたら、
この 椿がボトっと落ちる 「回転作用を減じるのではないか」 と考察しているのであります。


「椿の花に宇宙を見る」 ことは、興味のこころを失わないことなのですね。


では、最後に お約束の 大塚敬節先生の
 「漢方と民間薬百科」(昭和41年発行 主婦の友社)より、
「椿」の漢方学的な 薬効を研究しましょう!



ツバキ 椿 (椿科)


別名: 山茶(さんちゃ)

薬用部位: 花 芽 葉 実

薬効: 関節や筋をちがえたとき 帯下(こしけ) 吐血 下血 毒虫刺され 夜尿症(寝小便)


使用方法

1 関節や筋をちがえたとき

葉四、五枚とり、これに甘草(かんぞう)を2gほど入れ、せんじて一日分として飲む。


2 帯下

葉を黒焼きにしたものと、生のまま粉末にしたものを等量まぜ、一日に3〜5gを飲む。


3 吐血 下血

白ツバキの花を咲かせたころにとり、一日量として3〜5gをせんじて飲む。


4 毒虫刺され

若芽をすりつぶして、その汁をぬる。


5 夜尿症

実を黒焼きにして飲むと、よいという。


臭気どめの効


斎藤・松島両氏著 「薬草薬木民間療法」 に、
ツバキの葉がウジの発生を予防し、臭気どめになると述べている・

「葉を五、六片に引きちぎり、便壺(べんつぼ)に入れておけば、ウジ虫発生せざること妙。
著者は常に夏季に用いているが、同時に臭気どめにもなる」






2001年2月17日撮影
場所:熱海 
寛一とお宮の像(金色夜叉です)


熱海で 中医学の研修塾のOB会が2月17日に開かれました。

本当は、私は 夜の宴会のための 買出しをする予定でしたが、
ホテル前の桜に見とれたり、
つい フラフラと 海が見たい!
と思い、観光に行ってしまいました。

みんなが真面目に仕事をしているときに、
私は 一人で フラフラ。




ほら、あった。

熱海の街角に咲く 椿。

山形では このような椿は見ることができません。

ひっそりと咲く 紅い花。

きれいだなあ。







03/03/16追記です。↓




いわき市の塩屋崎灯台に行きました。灯台に昇る丘から、太平洋と椿が眺められました。
春を感じるとともに、風が強い一日でした。(03/03/16撮影