オーケストラがやって来た

永遠の果てしない道

03/01/26


先日、1月21日のNHK教育テレビ 「ETV2003 マエストロの肖像」を見ました。
(NHKさん、リンクありがとうございます)


ちょうど、前日に大相撲で貴乃花が 結びの大一番で負けて
引退を表明した日でしたので、その時間帯のニュースは 貴乃花一色でしたが、
私は たまたま その番組を見てしまいました。


もともと、洋楽ロックなどが 好きな私でしたが、
最近は、ジャズやクラッシク、とくにオーケストラやオペラは素晴らしいと
思うようになってきました。


クラッシクに関しては、まだまだ ラジオのFM放送では
正直言って聴いていて つらいところがあるのですが、
テレビでは大丈夫。


何故なら、テレビでは画像があるからです。


指揮者の表現豊かな顔や身振り、コンタクトを振る手つきを見ていると、
幸せな気持ちになります。


カメラは、指揮者ばかりでなく、バイオリンなどの弦楽器や
ドラムなどの打楽器、クラリネットやフルート、オーボエ、ホルンなどの
奏者も映しだしていきます。


魂を揺さぶるような音色を演奏する
奏者の顔や身振りも、興味が惹かれます。

オーケストラは、各々の楽器の音色の積み重ね、
微分・積分とでも言うのでしょうか、
化学でいうならば、音の化学反応が そこに存在します。


さて、冒頭の話題の「ETV2003」に戻りますが、先週のラインアップは、
1月20日(月)放送「第1回 ヘルベルト・ブロムシュテット(NHK交響楽団名誉指揮者)」。

1月21日(火)放送「第2回 準・メルクル」。

1月22日(水)放送「第3回 ウォルフガング・サヴァリッシュ(NHK交響楽団桂冠名誉指揮者)」でした。


3回ともすべて見ましたが、私が一番と心に感銘を受けた方が、ブロムシュテットさんです。





ブロムシュテットさんは、現在75歳。


ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督とサンフランシスコ交響楽団の名誉指揮者。


サンフランシスコ交響楽団では、1985年から1995年まで、音楽監督を勤め上げました。


テレビでは、とても若々しく、75歳には見えません。


1927年にアメリカのマサチューセツ州のスプリングフィールドに生まれ、
2歳のときに家族は スエーデンに引越ししました。


お父さんは、キリスト教の牧師さんで、お母さんはピアニストで、
どちらもスエーデン人です。


ブロムシュテットさんは、お母さんにピアノを教わり、
そしてストックホルム王立音楽学校へ進み、その後 音楽の名門 ウプサラ大学で研鑽を積み、
大学では一番という たいへん優秀な成績で卒業しました。


伝説の指揮者 イゴール・マルケビッチやバーン・スタインのもとで
指揮の勉学に励みました。


恥ずかしがりやの性格だったので、一人でピアノを演奏するよりも、
みんなで 演奏していたほうが楽しかったのが、
指揮者の道を 目指すきっかけだったそうです。


(ソロでは、手が震えてしまうそうです。。)


1953年には早くも、頭角を現し、koussevitzky指揮者賞の栄冠に輝き、
1954年には、ストックホルム・フィルハーモニーで指揮者としてデビュー。


1955年には、音楽監督として サルツブルグの指揮者の大会で 1等賞の栄冠に輝き、
それから飛躍を始め、オスロ交響楽団の音楽監督としての地位まで登りつめました。


その後、デンマークや スエーデンの放送交響楽団の音楽監督などを歴任し、
1975年には 東ドイツのドレスデンの交響楽団の指揮者となりました。


ブロムシュテットさん曰く、東ドイツの国は嫌いだったが、
音楽がやりたかったので、引き受けたと言っていました。


そして サンフランシスコ交響楽団で 世界的に有名になり、
現在に至っているというわけです。


ブロムシュテットさんの その偉大な経歴もありますが、
初めてテレビで見る ブロムシュテットさんの
その人間性が好きになりました。





感銘を受けたところを箇条書きにしていきましょう。



@ブロムシュテットさんは、菜食主義者で、一切、肉やお酒を口にしません。


「ゾウやキリンなどの大きい動物は、肉を食べないでしょう。
野菜は、力がでるのです」


Aブロムシュテットさんは、スラーっと身長が高く、スリムなところ。
(やはり肥満はいけませんね)
姿勢も良くて、さすが指揮者という感じです。


Bプロムシュテットさんの夫婦愛


この“夫婦愛”が、「ETV2003」の番組の大きな柱になっていました。

54年間連れ添った奥さんは、現在は 足が不自由ですから
つねに車椅子の生活で、スイスの施設にいます。


ブロムシュテットさんは ふだん、ドイツで仕事をしていますし、
世界中を飛び回っていますので、なかなか家があるスイスまで帰れませんが、
帰宅できるときには、奥さんと一緒に過ごすようにしているそうです。


「今まで、二人で世界中を旅してきたが、もう二人では行けないんだ」


奥さんの車椅子を押して外を散歩し、
ブロムシュテットさん自身が手料理を作ります。


ブロムシュテットさん曰く
「妻に料理を作っているときが一番楽しい。
妻は、私のために50年間以上も料理を作り続けたのだよ」
と言っていました。


食事の前には、神に祈りを捧げ、日本のカメラが撮影していますので、
「かんぱーい」と洒落て喋ります。


奥さんが、「あなた、今なんて言ったの?」


「日本語の乾杯だよ」という夫婦の会話のシーンは、良かったですね。


Cブロムシュテットさんの信仰心


お父さんが牧師さんでしたので、プロムシュテットさんの信仰心も厚いものが
あります。毎週日曜日には、旅先でも必ず教会に行き、賛美歌を歌います。


「神様は、いつも私の傍にいて、見守ってくださっています」


私のおばさんもクリスチャンなのですが、
私も高校時代にその話を聞きました。

心の中には、ふだんは気が付かないけれども、
誰にでも神様の扉があるのです。


ブロムシュテットさんは、指揮者の仕事は、
「神様から与えられたもので、私の使命だ」と言っていました。


Dテレビでは、マーラーの交響曲第5番第四楽章「アダージョ」を練習している
シーンになります。


ブロムシュテットさんは、団員たちに このように曲の解説をします。


「映画の『ベニスに死す』では、悲しみの曲に使われたが、
そうじゃないんだよ。この曲は、「愛の表現」なんだよ」


ブロムシュテットさんは、演奏会が終わると
一人一人握手して、団員をバックステージで迎える心の暖かい人です。


士気が上がりますよね。





さて、番組はクライマックスのインタビューに移りました。

インタビューヤーが、ブロムシュテットさんに話を聞いていきます。



ブロムシュテットさんは語ります。


「私は、すべての曲は、宗教曲だと思っています」


音楽には、作曲家の魂が入っていて、それを再現するために
指揮者やオーケストラがいるのかもしれないですね。


また、ブロムシュテットさんは 同じ北欧生まれの
シベリウスなどの 北欧の作曲家を得意としていていますが、
「自然が音楽家や曲を作る」とも語ってしました。


シベリウスの曲は、北欧の自然が生み出し、
かつて幼少期を 北欧で暮らしていたブロムシュテットさんが得意とするのは、
当たり前かもしれないですね。


インタビューの最後に語っていた
ブロムシュテットさんの言葉が印象的です。


音楽は、私の人生を映し出す鏡です


私の胸を打ちました。

音楽、オーケストラって、素晴らしいものですね。


ブロムシュテットさんの音楽には、
ブロムシュテットさんの人生が反映されていることが分かりました。


番組のエンディングは、奥さんの車椅子を後ろから押して、
外の景色を二人で楽しみながら
会話を楽しんでいるブロムシュテットさんで
番組が終わったのでした。


久しぶりに、胸が熱くなる番組でした。





さて、私が昨年の夏(2002年)に村山や大石田で撮影した写真がありますから、
今からオーケストラを奏でたいと思います。


村山のじゅんさい沼の風の音、とんぼたちの音、蛙の水へ飛び込む音、蝉の鳴き声
など感じて頂ければ幸いです。


自然から生み出され、人生を映し出すような音楽を奏でてみたいものです。



村山と大石田の自然と虫たちのオーケストラ


永遠の果てしない道(2003/02/20追記)


2月17日(月)深夜0:55〜1:40分に、
ETV2003「マエステロの肖像 第一回 ヘルベルト・ブロムシュテット
〜永遠の果てしない道」の再放送を心待ちにして見ました。

メモ帳を片手に、しっかりと拝見させて頂きましたが、
再度 感想を述べます。





ブロムシュテットさんは、牧師の父親とピアニストの母親の間に生まれ、
才能を見出され、75歳の今まで音楽に人生を捧げてきました。


ブロムシュテットさんを支えているものは、深い信仰心と愛です。


ブロムシュテットさんの朝は、聖書を読むことから始まります。


その後、テーブルの上に両手を重ね合い、
目を深くつぶり、神に祈ります。



ブロムシュテットさんは言います。


「神は、人生の一部としてつねに存在している。
神はいつもそばにいるのです」


スエーデンで暮らしていたブロムシュテットさんは 北欧育ちですから、
フィンランド生まれのシベリウスの交響曲第七番などの演奏を得意としています。


北欧は、壮大な自然に囲まれ、影響を受けています。


この北欧の美しい風景を見た人は、
やがて神の存在を意識するようになります。


自然の美しさ、自分よりも偉大なものに対して、
作曲家は追い続け、音楽で表現できるよう努力してきました。


オーケストラが演奏するにあたっては、
その音符の一音一音の意味をきちんと理解し、
生きた音楽にしなければなりません。


そういった意味で、すべての音楽は、
自然の神秘や未知のものに対する憧れを含む宗教音楽と言えます。


ブロムシュテットさんは、
オーケストラで指揮をしているときには、神の導きを感じるそうです。





ブロムシュテットさんは、続けて述べていきます。


「音楽は人生を写す鏡となります。」


「私が演奏するならば、私の人生を写す鏡です。」



「私は、とても好奇心があります。

つねに知りたいと思っています。

ところが、世の中のすべてが知っていることばかりでしたら、
こんなにつまらないことはありません。

分からないことがあるから、人生は面白いのです。」


と番組は進行し、
奥様のワルトラウトさんの車椅子を押して歩く、
ブロムシュテットさんでエンディングを迎えました。





すると、今回の再放送はテロップが流れました。


本年の2月8日に、スイスのルツェルンに住んでいた
奥様のワルトラウトさんが亡くなられたそうです。

「ご冥福をお祈り致します」と流れて、再放送が終わりました。


私の脳裏には、奥さんを大切にし、肩をポンポンと叩いて励ましたり、
ファウストの人形のお土産を嬉しそうに 奥さんへ持っていった
ブロムシュテットさんの愛ある、やさしい姿が脳裏に浮かんできました。


ワルトラウトさんは、神に導かれ、天国へ旅立っていったことでしょう。





この番組を通してですが、印象に残っていることは、
ブロムシュテットさんが こう述べていたことです。


「自分に与えられた才能を、みんなで分かち合う」


ちょうど、昨年の暮れにNHKで、聖路加国際病院名誉院長の日野原重明さん
と瀬戸内寂聴さんの対談が放映された内容を思い出しました。


91歳の日野原さんも、このように述べていました。


「なんぼ長生きしたとしても、自分のための長生きでしたら、
そんなつまらない人生はないですよ。
人のためにならなくてはなりません。」

50代のときによど号ハイジャックに遭われてから、
人生が変わったそうですが、私も考えさせられました。


英語では、才能のことを「ギフト」と呼び、
天から与えられたものであるとしています。


その与えられた「才能」は、自分自身のために使うのではなくて、
まわりの人たちに役立てることが大事なのです。


ですから、私も最近は、起床後に こう願うようにしています。


「神様、今日も一日自分の能力が発揮できますように」


薬剤師としての、職能を発揮できるように努力していきたいものです。

また、人生に対しても真摯に取り組んでいきたいです。


永遠への果てしない道は続きます。




永遠の果てしない道2(03/05/14追記)



ヘルベルト・ブロムシュテットさんに興味をもった私は、
4月に東京の勉強会に出席したときに、
銀座の山野楽器を訪れました。

地方では クラッシクが充実したお店は
なかなか探せません。


一般的に クラッシクを購入するときには、
作曲家の名前で購入を決めたり、
NHK交響楽団などといったオーケストラの名前で
購入するのだと思います。

私の場合は、ブロムシュッテットさんのファンになりましたから、
ブロムシュッテットさんがタクトを振るったCDを探していたのです。


仙台や郡山では、撃沈していたものの
さすが 山野楽器店です。


ありました。ありました。


思えば、変わったものです、私も。。

昔は、ロックコーナーに行っていたものが、
あの銀座の山野楽器店ですから。。。


さて、喜んでオーケストラのコーナーに行って見つけたものは。


◎ブルックナー

交響曲 第4番 《ロマンティック》

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ドレスデン・シュターツカーレ


◎ブルックナー

交響曲 第7番

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ドレスデン・シュターツカーレ


◎R・シュトラウス

交響詩 《ツァラトゥストラはかく語りき》 作品30
交響詩 《ドン・ファン》 作品20

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ドレスデン・シュターツカーレ


◎R・シュトラウス

交響詩 《英雄の生涯》
ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ドレスデン・シュターツカーレ


◎モーツァルト

交響曲 第38番 ニ長調 K・504《プラハ》
交響曲 第39番 変ホ長調 K・543

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ドレスデン・シュターツカーレ

◎モーツァルト

交響曲第40番 ト短調 K・550(第1版)
交響曲第41番 ハ長調 K/551 《ジュピター》

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ドレスデン・シュターツカーレ


◎ニールセン :交響曲全集

交響曲 第1番 ト短調
交響曲 第2番 ロ短調 「四つの気質」
交響曲 第3番 ニ短調 「ひろがりの交響曲」
交響曲 第4番 「不滅」
交響曲 第5番 
交響曲 第6番 「素朴な交響曲」

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 サンフランシスコ交響楽団





一番最初に聴いたのは、ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」です。

(今も、この文章を書きながら 第4番を聴いております)


ブロムシュッテットさんが得意とするのは、
ブルックナーを中心とするドイツ後期ロマン派作品と北欧の諸作曲家の曲です。

ブロムシュッテトさんとドレスデン・シュターツカーレのブッルクナーと
ブロムシュッテトさんとサンフランシスコ交響楽団のニールセンの演奏は、
素晴らしい名演と思います。


ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」や第7番では、
壮大な川の流れのような自然の偉大さを感じます。


そして、神の導きを感じることができます。


悩みや迷いが消え、(少なくともブッルクナーを聴いている間は)、
勇気がわいていきます。

人間というものは、小さな存在で
世の中には 素晴らしいことがたくさんあるんだ。


ああ、ブッルクナー。


フィンランドの国民的作家であるニールセンも好きです。

寝る前に、ニールセンを聴くと もう 夢の中。


ニールセンの交響曲は、どれも素晴らしいと思いますが、
聴いていてびっくりしたのは、交響曲第3番「ひろがりの交響曲」第2楽章です。


声楽が入ります。


バリトンとソプラノの「ア」による母音唱法の旋律が
オーケストラの上に流れていきます。

男性と女性の声による声楽です。

メロディーラインも美しいです。

もし覚えていたら、ぜひ聴いてください。必聴だと思います。


神が身近にいる感じがしました。


ああ、二ールセン。


そして、ブロムシュテットさん ありがとう。


オーケストラの音楽は、時を超え、私たちに感銘や導きを感じさせます。

永遠への果てしない道は続いています。