無名コラム

00/12/13

セールスマンの死



一人のセールスマンが死んだ……

何故……

家族の愛に守られながらも、
巨大な社会機構の中で押し潰されていく人間の悲劇。

1947年に書かれたアーサー・ミラーの秀作。

この作品に思いを馳せて二十数年。

1999年、折りしもニューヨーク滞在中にアーサー・ミラー氏に会う機会を得、
上演が実現することとなりました。

嬉しいかぎりです。

主人公 ウィリー・ローマンを悩ませるもの

“アメリカンドリーム”への疑問

“父と子”の葛藤

“家族”の崩壊

私にはバブル崩壊後の日本が重複し、一様に悲しい。

私は悩めるウィリー・ローマンに挑みます。

無名塾育ちの役者とともに……

仲代達矢



山形演劇鑑賞会第260回例会 「セールスマンの死」 無名塾 25周年記念公演

10月12日(木) 6:15PM 天童市民文化会館



「セールスマンの死」は1949年、演劇界最高の栄誉であるピュリッツァ賞を受賞。

1999年のブロードウェイでは、初演半世紀を経て 「セールスマンの死」が再演され、
この年のトニー再演演劇作品賞と演劇主演男優賞、妻役である「リンダ」も助演女優賞を獲得した。



暗やみの中、幕が上がる。

私は最前列中央に座っている。

山形演劇鑑賞会 「あゆみ」に、新入会員となったので、
特別に気をつかって頂いたらしい。

舞台中央、私の目の前 1〜2メートルの距離に、
仲代さんが下を向き、ボストンバッグを両手に抱え、スポットライトを浴びる。

私は今まで、映画が一番だと思っていたが、違っていた。

舞台には、昼と夜、朝と夕方があり、シガーの煙は客席に忍び寄る。

走る、笑う、無く、怒る、……そこには人間の感情のすべてがある。



仲代さん、後半からは涙を流しながら、ウイリー仲代になっていた。

「世界の仲代」とともに、至福の3時間が過ぎた。


家族の愛とは。

仕事とは。

人生の愛とは。

人間は何のために生き、

そして死ぬのか。








山形演劇鑑賞会 「あゆみ」 は、各地にサークルを持つ、自主的なサークルです。

観賞マナーは とても良く、素晴らしいスタッフが運営しています。

私は、北村山公立病院のサークルに所属しているらしいです。
(実際は、どうなっているのか よく分からないのですが、、)

私が、仲代さんの舞台を目の前で観賞することができたのも、みなさまのお蔭なので感謝しています。

もちろん、仲代さんばかりでなく、無名塾のメンバー全員の方々の演技は素晴らしかったです。

もはや、無名塾は 日本一の劇団といっても過言ではないでしょう。

さて、この写真は 「セールスマンの死」 の舞台を、舞台終了後にスタッフみんなで片付けているところです。

無名塾の舞台を撮影できたのは、きっと本邦初公開でしょう。







私は、この日の舞台を見てから、人生が変わりました。

「お金だけが幸せでない」 とは、 「ブエナ☆ビスタ☆ソシアル☆クラブ」 のパンフに
翻訳家の石田泰子さんが感想を書いていましたが、切実に そう思います。

生きているうちに、いい舞台や映画、よい音楽、絵、美術品、文学などに触れていきたいです。



主人公であり、かつては活躍したセールスマンのウイリー・ローマンは、
36年間 勤めた会社をリストラで首になり、
絶望的な状況に追い込まれています。

父や兄は 「ゴールドラッシュ」 で一山当てたのに。。

ウイリーは 会社の将来を信じ、忠誠を尽くしてきたのに、
社長が 息子に代替わりしたら、切り捨てられたのです。


家庭では、よき父で 素晴らしい妻と二人の息子がいました。

特に、長男のビフは フットボールが優秀で大学に進学できるところだったのですが、、、。


ウイリーは不倫の現場を ビフに見られてしまい、
ビフもそれがショックで高校を留年して卒業できずに、
大学には 行けませんでした。



かつての ビフのクラスメートは弁護士になっていて、出世しているというのに、
ビフは34歳になっても無職。

それでも、ウイリーは自分の息子の将来を信じ、可能性があり、優秀だと希望をつなぎます。

ビフは、就職活動をがんばりますが、うまくいきませんでした。

父のウイリーは、てっきり 就職できたと思って、ウキウキしています。



アメリカ映画に見られる 「父と子」 の葛藤に、私も 自分を照らし合わせながら 観賞していました。


ロッケトボーイズの映画、「遠い空の向こうに」 (原題は 「OCTOBER SKY」) も そんな映画で、
ラストシーンでは、泣いてしまいましたが、
この 「セールスマンの死」にも 個人的には そのテーマを強く感じたのです。

ウイリー・ローマンの気持ちは、きっと家庭をもってから 何十年後かに 私にも実感できるのでしょう。



舞台のラストで、親子が和解し、互いの立場に理解を示すシーンがあります。

そこで ビフが放った言葉は、未だに忘れられません。



「父さん、僕は僕なんだよ」

何故か、涙がこぼれてきました。


期待に応えたいけど、応えられなかった。


分かります、その気持ち。





無名コラムは、
無名塾の舞台で感動したことを伝えたい。

また、コラムを書いている人間が
名も無い 無名な人だから。

そういう両方の意味で
「無名コラム」と名付けました。

これからも、無名コラムでは、
自分が感動したことを伝えていきたいと思います。