周期療法・中国不妊症専門講座南京研修に参加して

03/12/03


日本中医薬研究会広報委員・南東北中医薬研究会 土屋薬局 薬剤師 土屋幸太郎





2003年11月19日〜11月24日の6日間に渡り、不妊症専門講座の総仕上げとして、
南京の周期療法の権威・夏桂成(か・けいせい)先生の外来診察と講義、
また旭川医科大学において6年間研究して医学博士号を取られた談勇(だん・ゆう)先生の
特別講義も拝聴する機会に恵まれました。

本来は5月に行く予定がSARSで延期になったり、出発する直前には西安での日本人留学生問題などもあり、
少々不安を抱きましたが、今は思い切って南京に行って良かったと十分に満足しております。





南京へは、上海空港から一路高速道路での移動となります。

私が初めて訪中した1991年当時は、上海空港は古いもので、電光も暗く、
本当の共産圏に来たという感覚がありました。

その頃には高速道路もありませんでしたので、
植民地時代の名残が残るフランス風の街並みを眺めながら上海入りしたものですが、
「十年一昔」となったようです。

中国の目覚しい発展ぶりに目を見張りながら、土砂降りの雨の中を約6時間かけての南京入りでした。





翌日から南京中医薬大学附属病院での研修が始まります。

飛行機で3時間かけて通院したり、朝の4時に予約をとったなどと、
夏先生の診察には多くの患者さんたちが訪れていました。

アメリカやイギリス、ロシアの患者さんたちもいるそうです。





夏(か)先生の診察は、一人一人丁寧に問診をし、脈診、舌診をします。

従来の弁証論治に加えて、患者さんたちが持参した検査データと基礎体温表を
考慮することが夏先生の真髄でしょう。


1960年代に西洋医師が、エストロゲンとプロゲステロンを陰と陽と認識し、
基礎体温表から中医学的な情報を読み取ることを考案したことが 「周期療法」の初めです。

夏先生は、それらを踏まえ、ご自身の臨床経験と理論を有機的に結びつけていったのです。





私にとって一番感激し印象が深かったのは、2日目の外来診察です。

周期療法で、めでたく自然妊娠された患者さんがいました。

どうやら妊娠しているらしいとのことで、妊娠検査薬で確認しに行ってもらったところ、陽性反応が出ました。


夏先生は、丁寧に脈診をとると「細脈(さいみゃく)」でした。


「脈が細いので、あなたには気血不足があります。流産しやすいので、切迫流産などになりやすいですから、
予防のために今日から入院してください」

正直言いますと、今まで中医に対して分かったかのような態度をとっていた私は、
この瞬間に中医の深遠なる偉大さを感じました。


患者さんの妊娠が分かった喜び、夏先生の患者さんを気遣う細やかな愛情、
そして機械を使わずに「脈診」だけで、流産の有無の予後を見通す中医学の素晴らしさには
大いに感銘を受けました。


数年前の周期療法を勉強し始めた頃には、このような深い理論が分かるのだろうかと自分自身思っていただけに、南京で研修している間に、ふと「夏先生の地元・南京まで訪れて、自分もここまで勉強できて、理解できるようになったんだ」と感慨深いものが込み上げてきました。

夏先生の中医学に対する真摯で深い熱意と、患者さんに対するやさしい人柄に触れたことは、
今後私の人生にとって大きな財産になることでしょう。





この原稿は、南京から帰国10日後に書いていますが、私自身の婦人科や痛みなどの漢方相談におきまして、
出発前と帰国後では相談方法が変わったような気がします。


最後になりますが、日本と南京の不幸な歴史があっただけに、
このような機会を設けて頂きました南京中医薬大学の先生方に深い謝辞を述べたいと思います。


南京で教えて頂いた多くのことを生かして、今後とも勉学と臨床に励み、より新しい中医学を目指します。

日本で私たちは、困っている人や悩んでいる人たちを救えるようになりたいです。


2003年12月3日 南京の街路樹・プラタナスの緑を思い出しながら 土屋幸太郎







この執筆原稿は、「中成薬新報」の最新号の原稿になります。
私の記載した文章は、早めに公開させて頂きました。