00/12/24
私が初めて北京に行ったのが、1991年。
バブル経済がやや下火が見えてきたものの、勢いが良かった。
土地の値段は どんどん上がり、このまま永久に続くのかと思うような時代だった。
新聞やテレビでは、銀座の土地の高さを証明するために、
タバコ一箱分の値段が幾らになると力説していた。
そのような時代だから、借り手は肩身が狭く、
安くて良いところを捜すのが大変だった。
私は、幸運にも 叔父さんが目黒本町に新築マンションを建てていたので、
そこに入居できた。
叔父さんは、戦後の混乱期に 山形から上京して
くず鉄を売って儲けて、財産を成した。
「ここの土地は、20万円で買ったんだ」
「あの頃に買っていて、本当に良かった」
うまそうに ピースを吹かしながら 喋る叔父さんの話に耳を傾けながら、
正直言って 羨ましいと思った。
土地を持つ者と、持たない者。
貧富の差は激しい。
私のような上京した田舎者は、東京の家賃の高さに驚いたし、
東京の部屋の狭さにも驚いていた。
部屋は確かに六畳ある。
しかし、いくらなんでも 日本家屋の六畳なら分かるが、
マンションサイズという 理解できない六畳はないだろう。
これは、畳が通常より 小さいという奇妙なものだ。
六畳といっても、実際は 四畳半に近い。
いくらなんでも これはないだろう。
バブル絶頂期の日本を脱出して、北京に辿り着いた。
私が参加したツアーは、「日水製薬」 という
「牛黄清心丸」などの漢方薬を販売しているメーカーが主催だ。
生まれて初めての中国に感動し、
万里の長城や 天壇、故宮などの観光を楽しく過ごし、最終日となった。
団長である O先生が、こうスピーチした。
みなさん。 1元は25円です。
楽しく観光され、それぞれお土産を たくさん買われたことと思います。
しかし、本当の1元の価値が分かるでしょうか?
タクシーの初乗りが 1元です。
これは、こちらの人にも 25円でタクシーが乗れるということでしょうか?
私たち日本人の感覚では、25円ですが、
中国と日本との物価のレートで換算すると、約20倍あると思ってください。
先ほど、タクシーの初乗りの話をしましたが、
1元は 25円ですから、 20倍を掛けると 500円になります。
ですから、1元は25円で安いと思ってほしくないのです。
1元に 20倍を掛けて物価を考えると、現地の人たちの生活が分かります。
私は、毎月 中国に来ていますが、
こちらの中医師(ちゅういし)には友人が大勢います。
一緒に 病院で診察したり、飯を食べに行ったり、 遊びに行ったりします。
そんなときに、日本人の感覚で 1元は25円と考えていると
真の友情は成立しません。
「タクシーは1元で 25円だから安いから乗ろう」
というのではなく、
「タクシーは 初乗り 500円だから、高い」と思って、
そんなら、ワンメーター分 一緒に中国人と汗をかきながら歩き、
その節約した1元で ご飯を食べた方がよいのです。
実は 何故? ツアー最終日にこのようなスピーチをしているかと言うと、
皆さんに 中国でお金を使ってもらいたかったのです。
初日に このような話をしたら、お金を使うのが慎重になってしまいます。
私は 中国が好きだから 皆さんに外貨を落としてもらいたかったのです。
このスピーチに、私は 感動しつつ感心した。
それ以来、
「1元は25円。 物価のレートの差は、1元に20倍を掛けるとよろしい」
と思っていた。
9年後の今年の場合。
王府飯店に到着し、早速 両替すると、
1万円は 734.12元だった。
電卓を叩いて計算すると、1元が だいたい14円くらい。
これは、1元が25円の時代から考えると、円高になったということだろうか。
ちなみに、両替するところも場所によっては、レートがもっと良いところがあり、
お茶屋さんなどで両替すると 1万円は760元くらいになる。
30元の差は大きいので、北京に住む日本からの留学生たちは、
そういうところで両替している。
留学生の1人は、
「1万円が 800元くらいになると生活が楽になるのに」
と言っていた。
今回の北京中医医院研修ツアーは、
ほとんど自分たちで行動していたので、移動するのに重宝したのが タクシーだ。
かつて北京のシンボルとも言われた黄色いタクシーは、姿を消していた。
紺色のセダンや赤色のシャレードが街を走る。
よく注意すると、タクシーの窓ガラスには、
「1.6」とか「1.4」 「1.2」などのシールが貼られているのに気付く。
それは、料金のランク分けで、1kmで 「1.6元」 「1.4元」 「1.2元」と
車種の違いにより区別されている。
「1.6」は 最高クラスだけあって、とても載り心地が良い。
「1.2」は 埃っぽいのが多かった。
何故か そういう 息苦しいのに限って、渋滞に巻き込まれる。
交通量が増えているので、道を間違えたり、時間帯によっては、
車が全然進まなくなるのである。
しかも 「1.2」 は車高も低く、スリル満点。
直進するのも勝負。曲がるのも勝負。
我々、日本人の運転マナーから比べると
顔が真っ青になる運転が多い。
わがままな人が多っかたり、気が短い人が多いのだろうか。
国民性の違いだと思うが、ちなみに、中国の運転免許の点数は 12点で、
それが無くなると 日本と同じように教習を受けなければいけないらしい。
「みなさん。 1元は25円です。
楽しく観光され、それぞれお土産を たくさん買われたことと思います。
しかし、本当の1元の価値が分かるでしょうか?
タクシーの初乗りが 1元です。
これは、こちらの人にも 25円でタクシーが乗れるということでしょうか?」
今回 初めて北京のタクシーに乗ったのだが、
初乗りは 「1元」 ではなかった。
全部の車種が 初乗りは 「10元」。
1元は 14円だから、日本円に換算すると 「140円」。
また、O先生の言葉を思い出す。
「私たち日本人の感覚では、25円ですが、
中国と日本との物価のレートで換算すると、約20倍あると思ってください。」
そうすると、このタクシーは 中国人には 初乗りが 「2800円」になるのか。
実は、北京は物価が上がっているらしい。
国力が上がったというべきか。
9年前は、レートに20倍を掛ければ、現地の感覚と一致したが、
日本人留学生に話を聞くと、今は 「5倍」を掛ければ日本人の感覚と一致するのだそうだ。
そうすると、「10元」のタクシーは 「140円×5 =600円」 になる。
20倍のころ 中国に住んでいたら、
それこそ 日本人は金持ちだったのだろうか。
今はまだ、北京は 私たちにとって、物価が安くて暮らしやすいが、
また月日が経てば 国力が変わって 違う時代になるかもしれない。
では、次号予告。
北京首都空港からは、すぐに高速に入ります。
昔の懐かしい道路は、左側に健在ですが、
もう走ることはないでしょう。
北京市内には、30分以内で到着するので
便利が良いのですが、
昔のように ゆっくりとあぜ道を見ながら、
「ああ、中国に来たんだな〜」
と感慨に耽る時間がありません。
昔の北京は古いところが多くて、
文化も発達していないところがあったので、
年配の先生たちは
「日本の30年代みたいだ」
「懐かしい」
「いいねえ〜。土屋君、昔は日本もこうだったのよ」
と、一同 感動していたものです。
万里の長城へ向かうバスも
今のように高速道路で行くのではありません。
明の十三陵を観光してから、
万里の長城に行くのは一日がかり。
夕方 日が暮れて
バスは走る。
1人の先生が何故か?
ハーモニカを持っていました。
「赤とんぼ」の郷愁をさそうメロディーが
晩秋の北京の空に溶けていきました。