イカリソウ

01/05/10



2001年4月28日 撮影
 土屋薬局敷地内
撮影者 土屋幸太郎
イカリソウの全景


「イカリソウ」と聞くと、奇妙な違和感を覚えます。


たとえば、初めて 「イカリソウ」と 聞いた人は、「怒り草」とか、「錨(いかり)草」 
または 「猪狩(いかり)草」と思うかもしれません。

正式には、和漢名では 「錨草(イカリソウ)」という漢字が当てはまりますが、
もし 「怒り草」だったり 「猪狩草」という名前だったら、どのようなイメージになるでしょうか?

「怒り草」という名前だったら、イライラを和らげるハーブだったり、
逆に その花の匂いを嗅(か)ぐと、興奮状態になって 人格が変わるかもしれません。


「猪狩(いかり)草」だったら どうでしょうか?

「猪(いのしし)」が好んで食べる草で、 「猪狩り」の おとりに使われたりしたら、
どのような草花になるか 想像もつきません。

ちなみに、中国では 「猪(イノシシ)」は、「豚(ぶた)」のことを意味しますが、
どちらにしても、「イカリソウ」とは なんだか怖いようなイメージがあります。


どう考えても、「イカリソウ」の名前には、男性的なイメージがあり、
とても 「やさしい」とか 「可憐(かれん)」 「優雅(ゆうが)」などの連想は思いつきません。

野暮ったいような、厳(いか)めしいような、そんな感じです。


では、私の家の敷地内で撮影した 「イカリソウ」の画像を紹介しながら、
イカリソウについて 読者のみなさまと検討していきたいと思います。






忙しくて 慌てていると
ブロック塀の下で ひっそりと咲く 
この可憐な花を見逃してしまいます。



まずは、日本漢方の大家である
大塚敬節先生の 「漢方と民間薬百科」 (主婦の友社 昭和41年発行)より、
イカリソウについて 研究します。


イカリソウ 錨草 (メギ科)


別名 三枝九葉草(さんしくようそう)

一般に淫羊霍(いんようかく)をイカリソウに当てているが、
牧野富太郎先生によれば、淫羊霍は別種のものだということである。

▲カグラバラ (茨城) ヨメトリグサ (静岡)


薬用部位 全草


薬効 歯痛 陰萎(いんい) 中風 健忘症


使用法


1 歯痛

老人や、からだの弱い人で、歯が浮き、歯の根が ゆるんで痛むものには、
夏の土用のころにとって 日光に当てて乾かした全草をせんじ、口にふくんでいるとよい。

2 陰萎

全草をとって上等の酒に一ヶ月ほど つけておき、布でこしたあと氷砂糖を入れ、
少しずつ飲むと、老人の陰萎にきくといわれているが、
いわれるほどは きかないとの説もある。

3 中風 健忘症

全草の乾燥したもの 10〜15gを、せんじて飲む。

また、酒につけておいて飲んでもよい。






イカリソウの花言葉は、「あなたを捕らえる」

静岡の方言では、「ヨメトリグサ」とありましたが、
なるほどなあ と思いました。

それにしても、可憐で美しいですね。



では、次に 私の師匠である 福島の貝津好孝先生の力作である
「日本の薬草」 (小学館 1995年発行)より、イカリソウを研究していきましょう!

(貝津先生は、冬虫夏草の研究では 日本一です。
この前も、お忙しいところを 電話かけて、冬虫夏草の煎じ方についてアドバイスをもらいました。
いつも ご指導 ありがとうございます)


イカリソウ 〔淫羊霍〕 メギ科


地方名: カグラバナ、ヨメトリグサ。

山野に生える多年草。

花の形が錨(いかり)に似ているので この名がついた。


薬用部位

全草(淫羊霍)。開花期の全草を天日乾燥する。

中国でいう 〔三枝九葉草(さんしくようそう)〕 はホザキイカリソウで、同じく使用される。

キナバイカリソウも同じ。


薬効: インポテンツ、腰痛。


使用法:

1日5〜10gを600tの水に入れ、1か月後より 1日1回 お猪口で1杯を飲む。

からだを温める薬草で、手足が冷えやすく、足腰に力がなく、
とくに下半身が疲れやすい人のインポテンツによい。

また、寒かったり冷やしたりすると痛みやすい腰痛によい。

手足がほてり、のぼせやすい人は服用しない。

のぼせやすい人のインポテンツには クワやネズミモチの実がよい。





2001年5月4日撮影
4月28日撮影から、1週間経ちました。
イカリソウの可憐な花は どこへ行ったのでしょう?


最後に、「中医臨床のための中薬学」 神戸中医学研究会 編著 (医歯薬出版社 1992年発行)より、
イカリソウを紹介します。


淫羊霍(いんようかく)


〔処方用名〕 淫羊霍・仙霊脾(せんれいひ)


〔基原〕

メギ科 Berberidaceae のシロバナイカリソウ Epimedium macranthum morr. Decne.、
ホザキイカリソウ E.sagittatum Makim.E.brevicornum Maxim.などの葉。

市場には全草品もあり、同様に利用される。


〔性味〕 辛・甘、温


〔帰経〕 肝・腎


〔効能と応用〕


@ 補腎壮陽・強筋骨

腎陽虚(じんようきょ)のインポテンツ・勃起不全・腰や膝がだるく無力・不妊・頻尿・尿失禁などの症候に、
単味を酒につけて服用するか、熟地黄(じゅくじおう)・枸杞子(くこし)・仙茅(せんぼう)などと用いる。


腎陰陽両虚には、仙茅(せんぼう)・巴戟天(はげきてん)・知母(ちも)・黄柏(おうばく)などと用いる。

方剤例 二仙湯(にせんとう)


A 去風除湿

風寒湿痺(ふうかんしつっぴ)の関節痛・しびれ・運動障害などに、桑寄生(そうきせい)・威霊仙(いれいせん)などと
使用する。

方剤例 淫羊霍酒・羊霍寄生湯(ようかくきせいとう)


B その他

止咳平喘(しがいへいぜん)・去痰の効能があり、陽虚の咳漱(がいそう)・呼吸困難に、
単味で あるいは補骨脂(ほこつし)・胡桃仁(ことうにん)・五味子(ごみし)などと用いる。


臨床応用の要点

淫羊霍は 辛甘・温であり、甘温で補い 辛温で散じ、
補腎壮陽・強筋骨 および去風除湿に働く。

腎陽不足の陽萎(ようい)・腰膝無力(ようしつむりょく)・不育 
および 風寒湿痺(ふうかんしっぴ)の疼痛麻木(とうつうまき)に適する。


〔用量〕 6〜12g 煎服。


〔使用上の注意〕

性質が やや燥烈で傷陰助火(しょういんじょか)するので、陰虚火旺(いんきょかおう)には禁忌(きんき)。





このイカリソウの花は、
実は 4月28日に撮影したものと同じものです。

たった1週間後なのに、
花暦では 月日の経つのが早いものです。

もう、可憐な花びらが散ってしまいました。



さて、ここまで 三冊の素晴らしい本から、イカリソウについて紹介してきましたが、
このサイトをご覧になっている 読者のみなさまに、もう少しだけ 補足します。


@ インポテンツは、日本漢方医学では 「陰萎(いんい)」と呼び、中医学では 「陽萎(ようい)」としています。

まあ、「陰」も「陽」も 萎えるということは、男として つらいものですね。(^^ゞ


A 淫羊霍(いんようかく)の 「霍(かく)」の本当の漢字は、「霍(かく)」の上に草冠があるのが正しいです。

パソコンでは漢字が出ませんでした。。 ごめんなさい。


B 中医学では、すべての生薬や食べ物を、「四気(しき)」 「五味(ごみ)」で分類します。


「四気(しき)」とは、 「寒・熱・温・涼」の四つの性質のことを指します。

このうち、「寒・涼」のものは、体を冷やします。

のぼせや炎症など、体に 熱症状が顕著なときに、向いています。

「温・熱」の性味のものは、体を温めるので、寒がり・冷え性など 機能低下症の状態の人に向きます。


ちなみに、この体が 「熱い」 「冷える」という症状は、体温計を基準にするのではなく、
あくまでも 自分自身の自覚症状が基準になります。





「五味(ごみ)」は、生薬や食べ物には 「五つの味」があるとして分類する方法です。

「辛(しん)・甘(かん)・酸(さん)・苦(く)・鹹(かん)」の 「五つの味」があります。





「辛味(しんみ)」の特徴は、「発散・行気(こうき)・活血・潤養」です。


辛い味には、この中のどれかを 特徴として持つのです。

たとえば、風邪をひいたときに、生姜(ショウガ)や 薄荷(メントール)、シナモン(桂皮またはニッキとも呼ぶ)などで
風邪を治したりしますが、これは 「辛い味」で カゼの邪気(じゃき)を 発散させ、外へ追い出すからです。

山形県の花 「紅花(べにばな)」は、血行を改善し 淤血(おけつ)を解消しますが、
これは 紅花には 「辛味(しんみ)」の特徴である 「活血」作用があるからです。





「甘味(かんみ)」は、「補益・和中(わちゅう)・緩急」の働きがあります。


滋養強壮作用や 胃腸を丈夫にしたり、急な症状 たとえば 「けいれん・痛み」などを和らげる働きが
「甘味(かんみ)」には あるのです。

たとえば、山形県名産のフルーツである 「さくらんぼ」。

「さくらんぼ」は 甘い味で 疲れを解消します。

漢方コラム 「さくらんぼ」も 参考にしてください)


もう一つ 「はちみつ」を 例にしましょう。

「はちみつ」は、甘い味ですね。

ですから、この「甘味(かんみ)」で
胃が痛いとき・胃の調子が悪い時に、胃の痛みを解消し、胃腸を丈夫にするのです。





「酸味(さんみ)」には 「収斂(しゅうれん)・固渋(こじゅう)」作用があります。


汗を止めたり、咳を止めたり、夜尿症(寝小便)、下痢、男性の精液の漏出(ろうしゅつ)などに
酸っぱい味を利用するのです。

たとえば、酸味のある梅干しで、下痢を治します。

漢方コラム 「梅」も 参考にしてください)





「苦味(くみ)」は、「泄(しゃ)・降(こう)・堅(けん)・燥(そう)」の四つの作用があります。


みなさま お馴染みの アロエや大黄。

便秘で お困りの方は お世話になっているかもしれません。

これらは、「苦味(くみ)」の 「通泄(つうしゃ)」作用をもつので、
便が コチコチの熱がこもっているような症状を緩和します。


もう一つ 例を挙げると アンズの種の 「杏仁(きょうにん)」は、「降気(こうき)」作用があります。

中医学では、咳は 肺の気が乱れて、上逆したものであると認識していますから、
「杏仁」の 「降気(こうき)」作用を利用して、 ピタッと咳を止めるのです。





「鹹味(かんみ)」は、「軟(なん)・堅(けん)・散結(さんけつ)・潟下(しゃげ)」の作用をもちます。


ところで、説明が遅れましたが、「鹹味(かんみ)」とは 塩辛い味のことです。

中医学では、この「鹹味(かんみ)」の作用を利用して、硬いものを軟らかくします。


たとえば、リンパの腫れ、甲状腺の腫れ、子宮筋腫などの 「しこり」には、
昆布(こんぶ)や 牡蠣(かき)などの 「鹹味(かんみ)」が強いものを利用します。





しなびてしまった 僕のイカリソウ。
それでも、また来年には 可憐な花が開きます。


という分けで、帰経(きけい)についても説明しようと思いましたが、
また 次の機会にします。

では、もう一度復習しましょう!


イカリソウ(淫羊霍)は、 〔性味〕 辛・甘、温  〔帰経〕 肝・ ですね。


これは、このように解読します。


体を温める薬効があるので、寒がり・冷え性タイプに使用し、けっして 暑がり・のぼせタイプには
使っては いけません。


「甘味(かんみ)」で 体を 「補益(ほえき)」する。

つまり、滋養強壮・疲労回復の効があり、体を丈夫にする。


「辛味(しんみ)」も あるということは、滋養強壮しながら、
「風寒湿(ふうかんしつ)」の 邪気(じゃき)が 体を襲っていて
 「痛み・しびれ」が発生しているのを解消できる。


「風寒湿(ふうかんしつ)」の 邪気(じゃき)を 体から外へ 発散させるのですね。


ついでに、帰経は 「肝・」。


「肝は 筋(すじ)を  つかさどる」
「腎は骨をつかさどり、髄(ずい)を生じ、脳を充(み)たす」
「腎は 精を蔵する」
「腰は腎の府(ふ)である」



これらの中医理論により、イカリソウ(淫羊霍)は、


筋肉や骨を丈夫にします。

腰痛を緩和します。

精力をアップさせ、春を蘇らせます。

物忘れ、痴呆症、など 頭の老化を防ぎます。


と 解読できるのです。


なお、これらの 体の悩みは 日本中医薬研究会の先生方など、
漢方専門家にお問い合わせください。

漢方薬・中成薬は、これらの理論を応用して、方剤が作られていますので、
「イカリソウ」などの 生薬単味の 民間薬療法よりも はるかに効き目が良いのです。(^^ゞ


(ここまで、文章をアップしていて、
純粋な読者のみなさまが 「イカリソウ〜くださ〜い!!」と店頭にいくかもしれないと思いまして
断り書きを入れました。 かならず、、専門の先生に相談するのが 確実です!)





私の影まで撮影してしまいました。
「カゲ!カゲ!カゲスター!」っていう
テレビ番組を 覚えていますか?



最近、「切れる」とか 「引きこもり」など、テレビ、新聞など マスコミで話題です。


「切れる」 少年たちは、なんで簡単に人を殺したり、犯罪をおかすのでしょうか?

文部省が 栄養士の先生たちで、子供たちに食事を指導しよう! というニュースを見たときには
なるほど もっともだと思いました。

食事は 「からだ」と「こころ」のバランスを調和させます。


また 「引きこもり」も なんで ずーっと 家にいたり 部屋に閉じこもっているのでしょうか?


私は 思います。


つまらない人間ばっかりいる世の中が 嫌いでも、それは 正しいかもしれません。


でも、勇気を出して 表に出てみれば、新しい発見があるかもしれません。


ブッロク塀の下で ひっそりと がんばっている草花たちがいるのです。


あちら こちらで、君に見てもらいたい って言っているような気がします。