眠れぬ夜に、このコラムを。
「機械仕掛けのハートビート」をめぐる 秋の夜長の考察
01/10/21
今まで、国際中医師の勉強を ひたすらしていたので、
最近は 映画をひたすら見まくり、なおかつ読書三昧(ざんまい)の毎日を過ごしています。
その中で、私が 個人的に感銘を受けたり、考えたりしたことから、
このコラムを展開していきたいと思います。
ニューズウイーク日本版さまの、
2001年10月17日号の世界の読者の皆様のレターズより引用させて頂きます。
(ニューズウイーク様、ありがとうございます。)
70ページより。
「機械仕掛けのハートビート」(8月1日号)を読んで、多くのことを考えさせられた。
人間の心臓は、実に素晴らしく神秘的なものだ。
心臓と同じように体内に 血液を送ることのできる機械を科学者が作ったとしても、
決して本物には かなわないだろう。
人工心臓を使っている人は、恐怖におののいたとき、
「心臓が止まりそうになる」という感覚を味わえるのか。
恋人と別れたり、競争に負けたときは、やはり胸が痛むのだろうか。
人工心臓は、生物学的な意味で 人の命を救うことができる。
だが 生きるということは、単なる血液の循環ではない。
それは、心臓という臓器を超越した 「ハート」、つまり 心の問題なのだ。
Krystle Ang さん(フィリピン)
私は、この Krystle Ang さん(フィリピン)の文章を読んで、感銘を受けました。
中医学での 「心(しん)」に対する考え方と、まったく同じ立場にたって 書かれた手紙だと思います。
中医学では、「心(しん)」は、「神(しん)」を蔵していると認識しています。
「神(しん)」は、英語での 「GOD(神様)」という意味では なく、
あくまでも 「精神、意識活動」ですから、「Sprit」 または 「HEART」を指します。
このことは、前回の「オランダと天王補心丹」でも、解説しましたが、
中医学では 心臓の役目や働きとして、心臓ポンプで全身に血液を循環させながら、
人間の意識活動や思惟活動、つまり 脳や中枢の作用をも つかさどっているとしています。
私たちの先人は、「心臓」が 「心(こころ)」も 持っていると考えていたのですね。
そう、人間が人間であるための 「ハート」です。
今年の7月に 世界で初めて、アメリカで 「人工心臓」の埋め込み手術が成功しました。
これなら、これからは 脳死を待っての、臓器移植に限らずとも、
人工心臓を埋めれば、患者の命は助かります。
しかし、「機械」である 「人工心臓」を埋め込んだ場合、
「生きる意味」 「人生の意義」 「生の価値観」について、Krystle Ang さんは、違う見方を私たちに提案しています。
高度に発達した 21世紀の医療は、一体 どのようになっていくのでしょうか?
山形県の某県立病院は、完全リニューアルとなって、新型パソコンシステムが作動しているそうです。
患者さんたちの言葉をまとめると、
「先生たち、パソコンのディスプレイばっかり見ていて、私のことを見てくれない!」
「あのような治療で、大丈夫なのか?」
などの、お言葉を頂戴します。
処方箋で 処方内容が疑わしいときは、薬剤師は ドクター(医師)に問い合わせます。
それを 専門用では 疑義紹介と言っています。
たとえば、「先生、ここの投薬内容の意味は、何を意図しているのでしょうか?」など 問い合わせるのですが、
「あ、パソコンで 処方内容を 前回のままにしていたから、その部分が残ってしまった」
ということもあります。(^^ゞ
私も、同じ 医療人として、そうならないように 気をつけたいものです。
さて、
好きな人がいたら、心臓がドキドキ、ドックンドックン、もう爆発寸前です。
恐怖に慄(おのの)き、まるで心臓が止まるような恐怖を味わいました。。
私は、一瞬息を失いかけ、心臓が止まるかと思いましたが、
しばらく時間が経つにつれ、怒りと激しい憎悪が 熱き血潮とともに
体全身を 駆け巡りました。
などの 胸がドキドキしてしまうような 人間本来の感情は、
もし 「人工心臓人間」になってしまったら、失ってしまうわけです。
そのような空想を考えるとき、まことに 失礼だとは思いますが、
「心臓神経症」 「パニック障害」 「不安神経症」の患者さんたちは、
実に 人間らしい感情を持っていると思います。
心臓が止まりそうなんですけど、胸が苦しいのですけど、病院の検査では ぜんぜん異常がないんです!
僕は、私は、一体 なんで こうなったのでしょうか?
という人は、けっこう多いものです。
映画 「アナライズ ミー」でも、ニューヨークのマフィアの三大親分の一人を演じる
ロバート・デニーロさんが、ストレスで 過呼吸になり、胸を抑えて、病院に運ばれました。
検査しても、異常はなかったので、
「本当に、俺は 心臓病ではないのか? このヤブ医者!!」と怒っていましたね。
そこで、たまたまマフィアの車にぶつかって、名刺を渡してしまったせいで、
数々の事件に巻き込まれてしまう 可哀想な精神分析医に ロバート・デニーロが セラピーを受けにいくわけです。
経過を ドクターに話したところ、「パニック障害」 「不安神経症」と診断され、
またまた デニーロが怒ってしまいます。
結婚を1週間後に控えるドクターと 過去のトラウマと マフィアの絶大なる権限を持つばかりに
ストレスに悩まさせられる親分との、奇妙なストーリーが展開されていきます。
(「心臓神経症」「パニック障害」 「不安神経症」にも、神様が教えてくれた名方 「天王補心丹(てんのうほしんたん)」が効くのですね)
こういう人たちは、デパスなどの安定剤を処方されたりしますが、
うーん、人間らしくて良いのかもしれませんね。
(「アナライズ ミー」では、デニーロは、「俺は、薬はやらない!!」と断言して、セラピー中心の治療となりました。
私の好きな ウイノア・ライダーがアンジェリーナ・ジョリーと共演している 「17歳のカルテ」では、
精神病院に閉じ込められて、思春期の女性たちが それこそ「山」のような、「薬」を飲ませれていました。
「17歳のカルテ」のパンフレットって、包帯が巻かれていて、凄いんですよ。知っていますか?)
「心臓神経症」「パニック障害」 「不安神経症」の患者さんたちは、
本人は つらいですけど、「ハート」があり、「スピリッツ」がありますから、
それを踏まえて、さんまじゃないですけど、
「生きているだけで、儲けもの!」くらいの余裕があると、多分 症状が軽減していくのではないでしょうか?
最近は、ついに 「文芸春秋」は面白いなあ と思うような年齢になってしまいました。
けっこう、読み応えがありまして、464ページもあるのに、「特別定価700円」です。
それに比べたら、週刊プロレス 10月30日号 138ページ 「特別定価 470円」。
週刊ゴング 11月1日号 147ページ 「特別定価 470円」。
まあ、プロレス雑誌は、写真が多いですから仕方がないのでしょう。
しかし、今週号は 永遠のライバル同志 同じ値段ですね。。
「オランダと天王補心丹2」という、テーマでした。。。
さて、文芸春秋の 「蓋棺録 ガイカンロク」より、私が興味をもった記事を紹介します。
458ページより。(文芸春秋さま、どうもありがとうございます)
外科医 クリスチャン・バーナードは、世界で初めて 心臓移植を行い、
医学の歴史に新しいページを開くとともに、倫理の歴史に 新しい問題を付け加えた。
1976年12月3日、南アフリカ共和国ケープタウンにある グルート・スキュール病院で、
交通事故で死んだ 25歳の女性の心臓を、
55歳の実業家 ルイス・ワシュカンスキーに 移植したという発表があった。
担当医は バーナード。
「私は このとき何をしていたか、病院の管理部門には 知らせなかった」。
ニュースは 世界をめぐり、バーナードによれば
「日曜日には 誰も知らなかった南アの医師が、月曜日には 世界の有名人になっていた」。
ワシュカンスキーは 18日後に死亡したが、この手術を皮切りに、
世界中で 心臓移植が行われるようになる。
しかし、手術を受けた患者が 長く生存するようになるまでには、
まだ 失敗の積み重ねが必要だった。
バーナードの時代には 異質な臓器に対する 「拒絶反応」も 「免疫メカニズム」も
ほとんど解明されていなかった。
その後、何人かが免疫について指摘したが、バーナードは 馬鹿げた説として考慮しなかった。
「私にとって心臓は 少しも神秘的なものではなく、原始的な ポンプにすぎなかった」。
以下略。
(9月2日没、心不全、78歳)
「私にとって心臓は 少しも神秘的なものではなく、原始的な ポンプにすぎなかった」。
この文章には、私は 驚きとショック そして衝撃を受けました。
心臓に 「神(しん)」も 「ハート」も 「スピリッツ」も感じないからこそ、
思い切って 病院の管理部門にも知らせずに、独断で「心臓移植」を行えたのでしょうか?
生涯に渡って、少しも休まず 働きつづける心臓は、神秘的なものですよね。
やはり、私は よく漫画で書いている 赤い「ハート」型の心臓の方が好きだなあ。
少々つらいけれども、胸が苦しくなる思いをしたり、緊張して ドキドキするのが人間らしいと思います。
この前、夕飯を食べながら、テレビを見ていました。
所ジョージとか、タケシが出演している 「世界まる見え!特捜部」
この番組では、世界のテレビ局で放映された感動的なエピソードなどを 紹介していきます。
たまに、見るのですが、けっこう面白い番組ですね。
さて、その日に放映されて、私が感銘を受けたことは。。
アメリカ在住のゲイア・ジョーさん(40〜50代くらいの女性の方)は、長い間 心臓病を患(わずら)っていました。
とうとう、薬でも治らなくて、心臓移植の道を選ぶことになりました。
ある日、ついに 待ち焦がれていた 「心臓移植」の日が、ゲイアさんにやってくることとなりました。
「心臓移植」は、先生たちの腕も良く、無事に成功しました。
ゲイアさんは、あきらめていた命を得て、第二の人生を歩むことになったのです。
それまでは ゲイアさんは、水泳などをしたことがなかったのですが、
リハビリを兼ねて 毎日プールで泳ぎ、メキメキと体力を回復していきました。
移植された心臓の働きも良く、快調な、そう 「素晴らしい日々」が過ぎました。
アメリカでは、心臓や肝臓、腎臓など、臓器移植を受けた患者さんたちの
全米移植者スポーツ大会があるのですが、
ゲイアさんは なんと水泳大会で 見事に 「優勝」を果たしたのです。
そんなある日、ゲイアさんが 自分の命を救ってくれた家族の人たちに会うことになりました。
ゲイアさんに心臓を提供したのは、14歳で事故で亡くなってしまった クリストファー君でした。
ゲイアさんの全米移植者水泳大会での メダルを獲った活躍を前述しましたが、
不思議なことに クリストファー君も、水泳が好きで、速く泳いでいたそうです。
クリストファー君のお母さんは、ゲイアさんに近寄ると、ゲイアさんの胸に顔をうずめ、
「ああ、クリストファーが生きている。クリストファーの鼓動よ!」
と言って、感動しながら 泣いていました。
翌年の全米移植者スポーツ大会では、ゲイアさんは 見事に
3部門の水泳大会で優勝し、メダルを獲りました。
もちろん、クリストファー君の両親や親族も、ゲイアさんを プール際から大応援です。
クリストファー君のお母さんは、
「ゲイアさんの胸の中で、クリストファーは 生きているのよ。そして、水泳でがんばって活躍しているのよ」
と嬉しそうに言っていました。
ゲイアさんは、水泳の練習や大会で、「もう駄目だ」と苦しくなる時は、
クリストファー君の 「がんばれ!」という声を聞きながら、クリストファー君と一緒に 今も泳ぎつづけています。
「クリストファー君は、今も 私の心の中で生き続けている」
中医学(中国漢方)では、
「人間は大宇宙の一つの存在である」 そして
「人間の体の中にも、一つの小宇宙が存在している」 と認識しています。
これは、「整体観」と呼ばれ、「弁証論治」ともに、中医学の素晴らしい世界観です。
心臓や肝臓、胃腸、目など、西洋医学では ずべて別々のものとして、あまり関連性を重要視していません。
一方、中医学では、人体を ひとつの大きな有機体として とらえています。
一つ一つの組織が独立した存在ではなく、互いに連絡を取り合いながら、
人体を構成しているのです。
「肝・心・脾・肺・腎」と五臓と、「胃・小腸・大腸・膀胱・胆・三焦」の六腑に分けられます。
これら 「五臓六腑」は、各々の特徴を持ちますが、
一つの有機体として 互いに関連しあって 気血を生成したりして、命を維持していくのです。
「心(しん)」も、「ハート」や「スピリッツ」を持っています。
心臓移植により、「神明をつかさどる」―「心(しん)」も移植され、
クリストファー君の 「ハート」や 「スピリット」が ゲイアさんに生まれ、
そして クリストファー君のお母さんの愛情が 注ぎ込まれても 不思議ではないのです。
「クリストファー君は、今も 私の心の中で生き続けている」