天栄の大柳

04/09/13



2003年5月3日撮影 場所:福島県泉崎村 撮影者:土屋幸太郎


今、この漢方コラム第65話 「天栄の大柳」を書いている日にちは2004年9月13日です。

今回、紹介していく写真たちは、2003年の5月3日の撮影ですから、
実に1年以上もの「熟成期間」を経て この漢方コラムに取り組んでいるわけです。

追々 その理由も含めまして 今回の漢方コラムを進めてまいりましょう。





福島県県南方面に向かった、最初の理由、
つまり本来の目的は 「三春の滝桜」を観光するためでした。

我が家を早朝に出発し、三春の「滝桜」には 朝の7時20分ごろには到着していました。


三春(みはる)の名前も素晴らしいし、芭蕉の永遠の名作である「奥の細道」でも
「三春」の名前が出てくるので きっと桜の大木も素晴らしいに違いないと
喜び勇んで出掛けたのです。



奥の細道 須賀川の段より


とかくして越え行くままに、阿武隈川を渡る。

左に会津根高く、右に岩城、相馬、三春の庄、常陸、下野の地をさかひて山つらなる。

かげ沼といふ所を行くに、今日は空曇りて物陰うつらず。

須賀川の駅に等窮(とうきゅう)といふものを尋ねて、四五日とどめられる。

まづ「白河の関いかに越えつるや」と問ふ。

「長途の苦しみ身心つかれ、且つは風景に魂うばはれ、懐旧に腸(はらわた)を絶ちて、
はかばしう思ひめぐらさず。



風流の初めや奥の田植えうた


「無下(むげ)にこえんもさすがに」と語れば、脇・第三とつづけて三巻となしぬ。





道中あれこれとあったが、とにかく白河の関を無事に越え、
歌枕の「阿武隈川」を渡った。

左には、やはり歌枕の「会津根(磐梯山の別名)」が高々とそびえる。

右には、岩城(いわき)、相馬(そうま)、三春(みはる)といった地方が(いずれも現在の福島県)があって、これらの地方と、常陸(現在の茨城県)・下野(しもつけ)の地方とを境するように、
山々が連なっている。

影沼という地を通ったが、今日は空が曇っているので、物の影が映らない。

言い伝えによればこの地では、晴れた日にはさまざまな物の蜃気楼が見えるということだ。


須賀川の宿駅で、「等窮(とうきゅう)」という私の先輩である俳人を訪ねたところ、
四、五日間引き留められ、お世話になった。

彼はまず、「白河の関はどのようにして越えましたかな」と質問した。

私は、「長旅の苦労で心身ともに疲れておりましたし、景色の美しさに圧倒されてしまい、
それに、古人の歌が次々と偲ばれて胸が一杯になりまして、
そんなわけで句を詠む心のゆとりは、ほとんどありませんでした。



「奥州のさまざまな風流の始まりとして、この地の田植え歌を聞いたことであったよ」


一句も詠まずに白河越えを済ませるのも心残りですので、何とかこの一句だけを詠んだ次第です」と、彼に語った。

すると、この句を発句(第一句)として、脇句(第二句)・第三句……と、内容を続けて膨らませていくことになり、三巻仕上げの連句の作品までになったのだった。



(「手にとるように「おくのほそ道」がわかる本 長尾 剛著」より、現代語訳を引用させて頂きました。
どうもありがとうございます)





以上、私の愛する「奥の細道」の中でも一番と好きな章の紹介でした。

この「須賀川」の段で紹介した内容の次の部分は、
以前の漢方コラム「栗の花」で紹介しています。

上記で紹介した「須賀川」の段の次の内容を、
漢方コラム「栗の花」で述べています。


「世の人の見付けぬ花や軒の栗」の一句は、奥の細道でも一番と好きな句です。

こういう地味な栗の木とともに過ごしているお坊さんの人柄を愛し、
なおかつ 地味な栗の花を歌った芭蕉の精神は すごく好きです。

いまだに、毎年毎年 栗の花を見たり、
ぷーんと漂う匂いを嗅ぐたびに「須賀川」の段を思い出します。





さて、そのような芭蕉を愛する気持ちも合い重なりまして、
「奥の細道」にも詠まれているくらい 「三春(みはる)」は素晴らしいのだし、
そうだとしたら、「滝桜」は きっと素晴らしいに違いないと確信して家を出発したのでした。


ところが、、、。。


残念だったこと

その1:高速道路のインターの出口から、「滝桜」に向かうまで
すべて道路に「→」とか、「あと何キロ」みたいな感じで、
思いっきり「観光の目玉」にされていたこと。

その2:早朝なのに、もう うじゃうじゃと観光客が一杯いて、
「鄙び」を愛する「鄙び系」の私には 耐え切れなかった。

その3:しかも、早朝から 1本の桜の木のために、
市が整備した巨大な駐車場があり、
しかもしかも 誘導のアルバイトさんたちがたくさんいて、
しかもしかもしかも 駐車料金が、「1本の桜の木」のために500円もしたこと。

その4:しかも、桜は散っていた。。。。


福島県の人たちが、「三春の桜は大したことがない」と言っている意味が
よく分かったというか、実感しました。


本来は、高齢で ひそかに暖かく見守ってあげるのが「筋」だと思うのですが、
あまりにも「有名化」「商売・商売」になっていて、
興ざめる私のような人間もいると思うのです。


あまりにも、三春の「滝桜」は可哀相です。


しかも、芭蕉の精神を持って、楽しみにして行ったならば。。。


(私が好きな桜は、「坂町の寺桜(熱海桜)」です。高橋相談役は、元気かな。。)












さて、さぞかし「奥の細道」にも詠われた「三春」だから、桜はなお とってもいいだろうという憧れが砕かれた後に、やって来たのは ここ同じく福島県の泉崎村です。

ここまで足を運んだ甲斐がありました。

アブラナ(菜の花)が満開です。


福島県は、「うつくしま」ですから さすがに美しいです。


5月の春の陽気をいっぱいに浴びる アブラナ。

永遠が一瞬に凝縮された感じで、いまだにこの時の感動は忘れません。


さて、それから泉崎村から 鏡石(かがみいし)方面に向かう街道を
車を走らせていましたら、衝撃的な出会いがあったのです。








車の大きさと比べてもお分かりのように、
この街道沿いの大柳は、
すごく大きいです。

10メートルは優に越えます。

その姿かたち、とても色っぽいです。

男性的な力強さと
女性の丸みをおびた柔らかさの両方を感じます。


ここは天栄村。

天(てん)に栄える聖なる地です。





なんて、勢いがいいんでしょう。

この大柳は、名前もないし、
ぜんぜん有名でもありませんが、
三春の滝桜よりも、
私の感動を誘ったのです。


まるで世の中の
つらいことも、楽しいことも
すべて体験してきたかのように、
私たちを見守ってくれます。


天に向かって、まっすぐに栄えろ 大柳。





さて、ここは「土屋薬局 中国漢方通信」です。

柳の漢方的な説明をしていきましょう。


漢方のレジェンンド 大塚敬節先生の「漢方と民間薬百科」より。



シダレヤナギ 枝垂柳 (ヤナギ科)



別名 イトヤナギ 柳 垂柳

薬用部位 葉 皮 枝

薬効

かぜ(感冒) 打撲(打ち身) うるしかぶれ あせも(汗疹) やけど はれもの 魚の中毒 歯痛


使用法

1 かぜ

枝10gを刻んで、ショウガを少し加え、せんじてあたたかいうちに飲む。

2 打撲

生の葉をすりつぶし、小麦粉を加え、酢を少し入れてねり、痛むところにはる。

3 うるしかぶれ

葉を濃くせんじた汁で、たびたび洗う。

4 あせも

葉を塩でもんで、その汁をつける。

また、この葉とモモの葉を一緒に、ふろに入れて入浴してもきく。

ドクダミを加えると、なおよい。

5 やけど

皮を焼いて灰にし、水でねってつける。

また、枝を焼いて粉末にし、ゴマ油でねってつけてもよい。

6 はれもの

葉、枝ともにせんじた汁で、温罨法する。

また、ふろにたてて入浴してもよい。

神経痛、リウマチなどにもよい。

7 魚の中毒

根の皮6gをせんじて、飲む。

8 歯痛

枝を刻み、せんじた汁で、うがいする。


かぜの予防に柳の茶


国立科学博物館研究員の丸山尚敏氏は、「創健」第39号で次のように述べている。

「風邪をひいいたとき、柳の皮を煎じて飲むとてきめんに効くが、
それよりも柳のお茶を始終飲んでいると、風邪をひかないようになる。

私の子どもは生まれてから、ほとんど風邪をひいたことがない。

柳には、アスピリンの化学成分によく似たサリシンというものがはいっているので、
興奮するのを抑える鎮静作用があるから、お茶を飲んで興奮しやすい方におすすめしたい」






そのような訳でして、
今回の漢方コラム「天栄の大柳」は、
私の頭の中で
1年以上も熟成を経て
作成されました。

また、偶然だと思いますが、
ここ美しい福島県南地方から、
今年の4月から 新進気鋭のスタッフが入社しております。

初めて面接が終わった後に、
私は 思わず「天栄村の大柳は知っていますか?」と
尋ねてしまいました。


今現在は、毎週木曜日の午後7時半ころから、
9時半、または10時近くまで、
私が 中医学を「天栄の大柳」近くの出身のスタッフとともに、
一緒に勉強しているところです。

何故だか、奇遇を感じる今日この頃です。


大柳のように、まっすぐに空を目指して
一緒に中医学をがんばりましょう。

そして すくすくと成長しましょう。