ヤドリギ(桑寄生

〜ヤドリギの下で甘いキスを〜

04/05/19


青森に向かう途中に、十和田湖でブナに寄生している宿木(ヤドリギ)を見つけました。自然って不思議ですね。
漢方では、ヤドリギは桑寄生(そうきせい)として膝痛や腰痛に効果のある独活寄生湯に処方されています。 (04/04/30十和田湖で撮影)






今年のゴールデンウイークは、十和田湖を経由しまして
青森周辺を訪れました。

楽しく、いろいろな思い出ができたのですが、
車での移動中に 私の目に飛び込んできた「ヤドリギ」を
今回の漢方コラムでは、特集していきたいと思います。


ヤドリギは 街道沿いや山沿いなどの自然が多く残るところで見かけますが、
いつもは 車で走り抜けてしまい、
なかなか撮影するチャンスに恵まれませんでした。


岩手県の鶯宿温泉付近を散策したときにも、
いくつかのヤドリギを発見しまして、
「あ、すごい」と思ったのですが、
結局は そのまま通り過ぎてしまいまして、
撮影することができませんでした。


「自然が豊富な山形県なら、ヤドリギをよく目にするでしょう?」
と「土屋薬局 中国漢方通信」の愛読者の皆様は、
そう思われるかもしれませんが、
しかし ヤドリギは山形県でも珍しいものです。

東根から仙台に行く街道の「48号線」でも見たことはありませんし、
新庄から古川に向かう「47号線」にも、
たしかヤドリギはないはずです。


難易度が高いんですね。
(敷居が高いのでしょうか?)

まるで猫柳(ネコヤナギ)のようです。


私の母親にも、「ヤドリギって見たことある?」と問い合わせたのですが、
今まで見たことは 一度もないそうです。

ましてや東京や大阪あたりの大都会にお住まいの方々にも、
今回の特集は 意義のあるものではないかと考えます。





さて、ここは 中国漢方のホームページですが、
まずは 世界におけるヤドリギの意味を検証してみましょう。


欧米では、ヤドリギは「Mistletoe」と呼ばれ、
クリスマスを彩る大切な飾りとして使われています。


冬になっても枯れず、枯れた荒谷で緑色に輝くヤドリギ。


大地に根を持たずに木に繁殖するヤドリギは、古来から欧米では
「再生のシンボル」「永遠の命のシンボル」として
神聖な不思議な力を持つものとして尊重されてきました。


「ヤドリギの下でキスすると将来幸せになる」という言い伝えなんて、
ああ、、なんと素敵でロマンチックなのでしょう。


思わず、うっとりとしてしまいます。


クリスマスのときなどは「ヤドリギの下にいる女性の人にはキスして良い」
という習慣もあります。

ですからパーティーのときの部屋の上には、
ヤドリギを飾ってキスするようにして場を盛り上げるとか、
ドアの下にヤドリギを飾って恋が実ったり、
幸運が訪れるようにします。


アメリカやイギリスなどでは、ヤドリギを見つけたら、
憧れの人に 「Lets kiss under the mistletoe(ヤドリギの下でキスをしよう!)」とかいう
口説き文句もあるようです。

(私だったら、英語は謙遜語を使いますので、仮定語交じりで
「Coud you kiss under the mistletoe ?(あのう、ヤドリギの下でキスを良かったらしませんか?」
と言いますが。。)


さてさて、「愛の象徴 ヤドリギ」っていいですね。


なんだか、このコラムを書いていたら、八甲田や岩木山の風に吹かれながら、
ヤドリギを撮影した想いが、グングンと妄想が広がってきました !


天然のヤドリギは 海外でも滅多に目にすることができないそうで、
見ることによっても 幸せになれるそうですから、
今回の漢方コラムは とても素敵な特集になるかもしれません。





ヤドリギ大特集


@十和田湖のヤドリギ




場所:十和田湖 日時:04/04/30 撮影者:土屋幸太郎

生まれて初めて十和田湖を見ました。

雄大な景色に胸を打たれながら、
車を走らせていると、
この1本のブナの木、
そしてヤドリギとの出会いがありました。




高さ10メートル以上は優に超える ブナの巨木につくヤドリギの勇姿です。

自然とは、深遠で不思議なものですね。

神秘を感じます。




ズーム・アップしてみましょう。

なんだか箒(ホウキ)の枝がぶら下がっているようにも見えてきます。

十和田湖上空で、ヤドリギを撮影するのは
不思議な気分でした。




今回、青森県をドライブしていて感じたのですが、
ヤドリギとネコヤナギ(猫柳)の生育地域ほぼ一体化していました。

後ほど紹介いたします八甲田近辺も、
ヤドリギがあるところには、大抵ネコヤナギがありました。

早春のまだ緑が濃くない季節には
両者の存在は 素敵だと思います。





八甲田方面を望みます。

十和田湖から、青森方面には 雄大な山が広がっています。

ああ、八甲田山が呼んでいるような気がする。




十和田湖湖畔の有名な彫刻〜乙女の像〜です。

大勢の観光客で大賑わいです。




では、ここでヤドリギとは、一体何者なのか?
どこからやって来て、どうしてブナなどの樹木に生えるのかなど
「ヤドリギの不思議」を検討してみたいと思います。


私の部屋にある蔵書から調べてみました。

「自然図鑑―動物・植物を知るために―」(福音館書店)より。
(引用させて頂きまして、ありがとうございます)


ヤドリギって不思議


ヤドリギが見られる木


冬、葉の落ちた木を見上げると、こんもりとしたかたまりが見つかることがある。

鳥が使った古巣であることもあれば、スズメバチの巣であることもある。

そしてヤドリギであることも。

ヤドリギは、ブナ、ミズナラ、エノキ、ケヤキなどの落葉広葉樹についていることが多い。

根を、宿主であるこれらの木にさしこみ、養分や水分を得、太陽のエネルギー
を使って光合成を行う、半寄生の生活をしている。

雄株、雌株があり、2〜3月ごろ雌株のヤドリギに、淡い黄色の小さな花が咲く。

そして次の年の冬1〜2月に、5〜10mmくらいの丸い実をつける。


実を食べるレンジャク


ヤドリギは、どうやって増えていくのだろう。

実が地面に落ちても、その実は育たないはずだ。

宿主である木に、種がくっつかなくてはならない。

その手助けをしているのが、冬鳥のレンジャクだ。

レンジャクは日本より北の国から、冬になると群れを作って飛んでくる。

木の実が少ない冬に、ヤドリギの実はレンジャクにとってありがたい食料だ。


ヤドリギを探しに行こう


ヤドリギの実の果肉は、べたべたと粘りけがある。

レンジャクに食べられた実は、ふんとなって出されるとき、
種とそのまわりの粘液が消化されないで、長い糸のようになってしまう。

レンジャクのおしりから、だらりと伸びたふんは、ある程度の長さになると切れて、枝にからみつく。

こうしてヤドリギの種は、宿主である木につくことができる。

枝についた種は、枝に根を張り、春になると芽を出して育っていく。

1〜2月ごろ、双眼鏡を持ってヤドリギを探しに出たら、
ぶらりとたれ下がったレンジャクのふんを見ることができるかもしれない。


「自然図鑑―動物・植物を知るために―」福音館書店


レンジャクという鳥が、冬にヤドリギの実を餌にして、
その糞から ヤドリギの種が、ブナやミズナラ、エノキやケヤキについて
ヤドリギが寄生するのですね。


空を旅するヤドリギは、ロマンと夢があります。


「人に歴史がある」ように、「ヤドリギにも歴史あり」です。






ヤドリギ大特集


A八甲田のヤドリギ




日時:04/05/01 場所:八甲田 撮影者:土屋幸太郎

雪壁にそって走ります。

ドライブコースでいえば、八甲田は満足度がかなり高いところです。

五月の青空が目に眩しく映ります。


しかし至るところに、ハザードを出して停車している車もありますし、
散策している観光客も多いですから、
気をつけて走らなければ。




八甲田も生まれて初めて訪れました。

十和田湖には 女性的な印象を受けましたが、
八甲田には 「父」とか「男性的」な 強い印象を受けます。


原始的で素朴な大自然。そして脅威。怖さなどが一体化している感じです。

ふだんは柔和なやさしさがあるが、豹変すると怖いイメージでしょうか?


神々が住んでいるような、近寄りがたい感じを私は持ちました。

だから、多くの人々が八甲田の魅力に取り付かれるのでしょうね。


日本が世界に誇る自然だと思いました。


青森に八甲田あり。




ブナ林が見事です。

よく見ると、ヤドリギたちが たくさんいます。

ヤドリギを 十和田湖に続いて、またまた発見しました!




本当に、ヤドリギとは不思議です。

よくぞ、ブナにくっ付いたものですね。

レンジャクのお陰なんでしょうね。





さらば、八甲田山。

思えば、小学生のころから気になっていましたから、
長年の念願達成といったところでしょうか。

蔵王や月山や鳥海山とは、また違った魅力がありました。




八甲田の猫柳です。





ヤドリギ大特集


B岩木山のヤドリギ




場所:湯段 日時:04/05/02 撮影者:土屋幸太郎


「岩木山には りんごの花がよく似あう」


名峰 岩木山です。


山形県では月山が透き通るように見えると、
心がすがすがしくなりますが、
津軽では きっと岩木山が 人々の心の柱になっていると思うのです。

実際問題、私が津軽にいるときには、
いつも岩木山に見つめられているような気がしました。

アップルロードを弘前から鰺ヶ沢方面に走っているときには、
この巨大な岩木山が 右手に見えたかと思うと、
今度は 左側にそびえている不思議さよ。




りんごの花は、季節がまだ早くて残念ながら咲いていませんでしたが、

「岩木山には ヤドリギがよく映える」とでも言うのでしょうか、
何が背景になっても美しいものです。


いつかは、りんごの花が満開の時期に、
もう一度訪れてみたいです。

会津只見川沿いの桐や栗の花が気になるのと一緒で、
地域を代表する花は やはりお目にかかりたいものですね。


さて、そうこうしているうちに、
湯段温泉の手前のところの公園で、
見事に真ん丸になった理想的なヤドリギを発見しました。





まるで鳥の巣のようなヤドリギですが、
このヤドリギの下に、素敵な彼女を誘えば
プロポーズが成功するかもしれません。

甘い誘惑を秘めている「幸せを呼ぶヤドリギ」




ヤドリギには、実は性別があり、
雄花(オバナ)と雌花(メバナ)の2つの株に分けられます。

雌花には、球状の実が付いています。


私が撮影したこのヤドリギには、球状の実がありませんので、
雄花(オバナ)と分かります。

ほんと、不思議ですね。ヤドリギは。














ヤドリギの成長過程が分かりますね。

このようにしてヤドリギは、大きくなって、
まるーくなっていくのですね。

ヤドリギは、死と再生を繰り返し
「永遠の輪廻」を手に入れたのかもしれません。


もう一度、ヤドリギを私の蔵書から勉強してみましょう。


寄生植物

ヤドリギ

よくサクラや、エノキ・クリなどにとりついて養分をよこどりする木です。

1本の木に、たくさんのヤドリギがついているのが、よく見られますが、
これは、鳥がふえるのをてつだっているからです。

実をついばんで、くちばしをえだにこすりつけるので、そこにたねがくっつくのです。

また、たべられた実が、遠くはなれた木にふんといっしょにだされ、
そこで大きくなることもあります。


ヤドリギの発芽

ヤドリギの実はよく鳥にたべられる。

そしてふんといっしょにだされたり、
くちばしでつつかれたりした実は、皮がやぶれ、くっつきやすくなる。

そのため、はこばれた木からおちないでいる。

やがて根をだすと、すぐにあいてのみきのの中にはいりこんでいく。

学研の図鑑 「植物」より(引用させて頂きまして、ありがとうございます。
まさか小学校時代の図鑑が大人になっても役立つとは夢のようです。)





みなさま、文章が長くなってきて読み疲れているかもしれませんが、
もう少しの辛抱を。

最後に、ここは「土屋薬局 中国漢方通信」ですから、
私の師匠である福島県の貝津先生の 「日本の薬草」より、
漢方的な考察を紹介させて頂きます。

(引用させて頂きまして、ありがとうございます)


ヤドリギ ヤドリギ科。

別名:トビツタ。北海道、本州、四国、九州に分布し、ケヤキ、エノキ、ミズナラなどに半寄生する常緑小低木。

ヤドリギは樹木に寄生する宿り木の意味である。


薬用部位

茎葉(桑寄生)。随時、採集し細かくきざんで、天日乾燥する。

ヤドリギの仲間で、オオヤドリギ(毛葉桑寄生)なども 同じように使用できる。


薬効

膝関節痛、腰痛、妊娠腰痛。


使用法

1日5gを600ccの水に入れ、30分ほど煎じて3回に分けて使用する。

足の裏がほてり、夜に悪化し、膝や腰がだるく力が入らないときの慢性の膝関節痛、腰痛によい。

貧血状態の胎動不安、習慣性流産、乳汁不足にも使用できる薬草で、
おもに妊娠時では足の裏がほてり、夜に悪化する腰痛によい。

このような妊娠腰痛には漢方では、六味丸、十全大補湯などを使用する。




中医学では、ヤドリギは桑寄生(そうきせい)と呼ばれています。

補腎作用のある生薬で、腰痛などの痺証(ひしょう)という
痛みやしびれによく処方されます。

数ある方剤のなかでも、その代表的なものが独活寄生湯(どっかつきせいとう)です。

(注:独活寄生湯は、「独歩丸(どっぽがん)」という商品名で日本で発売されています)

(「慢性的な痛みも副作用なく治せる奇跡の漢方薬 独活寄生湯」も参考にして頂きますと
とても嬉しいです)

土屋薬局の漢方相談の特徴は、痛みやしびれに強いことで、
私(土屋幸太郎)にとっては、すべての漢方薬のなかで
「一番に美しいもの」で、なおかつ 「一番によく効く」ものが独歩丸(独活寄生湯)でしたし、
今後の私の長い 「漢方人生」にとりましても、
独歩丸(独活寄生湯)を愛していくことには 変わりありません。


ですから、私自身にとっても、今回のゴールデンウイークで、
青森県を横断しながら ヤドリギをたくさん見つけたのは意義深いと思っていますし、
正直いって嬉しいです。


昨年の夏に、私は長井市の三階滝に行く林道沿いで、
シシウド(独活)も見つけましたから、
独活寄生湯の独活―シシウド、寄生(桑寄生)―ヤドリギという主要な生薬は、
「土屋薬局 中国漢方通信 漢方コラム」に収録されることになりました。


漢方コラムを続けていて 良かったと思いますし、
漢方の世界は 奥が深いと改めて思った 今回の特集でした。




長井市三階滝のシシウド(独活)と八甲田のヤドリギ(桑寄生)の勇姿です。

2つ合わせて、独活(シシウド)と桑寄生(ヤドリギ)で、
独活寄生湯です!


清らかな山に生息するシシウドと、
真冬にも ブナやミズナラなどに 永遠の命を宿すヤドリギを、
よくぞ 痛みの漢方に使ったものです。

私だったら、想像もつきません。

先人たちの知恵の深さ、
経験上生み出された 
漢方の世界の深さには
神秘的なものさえ感じます。

今の時代のように、
鎮痛剤など存在しない時代には、
必死で 自然のものと向き合って
一つ一つ、
時には毒草で命を落としながらも、
医学の歴史を築き上げていったのでしょうね。


ではでは、みなさまにとりましても
縁起の良いコラムになりますように。

ヤドリギの下に、
素敵な彼女や彼氏も誘ってくださいね。


いつか津軽の満開のリンゴの花もお見せしましょう。