
「月経が何か月も来ていません」
「以前より月経量が少なくなりました」
「病院で無排卵といわれました」
土屋薬局には、月経不順や無月経、月経量の減少について、このようなご相談が寄せられます。
こんにちは。
山形県東根市の土屋薬局、薬剤師・認定不妊カウンセラーの土屋幸太郎です。
今回は「女性のための漢方レッスン」第3回として、女性の「血(けつ)」を養う代表的な生薬である「当帰(とうき)」についてご紹介します。
当帰は、当帰芍薬散や四物湯、婦宝当帰膠など、女性の身体を整える漢方薬に広く用いられてきた生薬です。
なぜ当帰は、これほど女性と深いつながりを持つようになったのでしょうか。
今回は、中医学における女性の身体と「血」の関係、当帰の名前にまつわる昔話、無月経や月経不順に対する漢方の考え方をお話しします。
女性の身体のトラブルを考える三つの原因
中医学では、女性の月経や妊娠に関わる不調を考えるとき、主に次の三つの状態を重視します。
1.血虚(けっきょ)
身体を養う「血」が不足した状態です。
血虚では、
- 月経量が少ない
- 月経期間が短い
- 月経が遅れる
- 顔色が青白い
- めまいや立ちくらみ
- 疲れやすい
- 手足が冷える
- 髪や肌が乾燥する
- 眠りが浅く、夢が多い
などがみられることがあります。
中医学の「血虚」と、西洋医学でいう「貧血」は、まったく同じものではありません。
血液検査で貧血がない場合でも、月経量や顔色、冷え、睡眠、皮膚や髪の状態などから、血虚の傾向があると考えることがあります。
2.気滞血瘀(きたいけつお)
ストレスなどによって「気」の巡りが滞り、それに伴って「血」の巡りも悪くなった状態です。
気滞血瘀では、
- 月経周期が乱れる
- 月経痛が強い
- 月経血に塊が混じる
- 月経前にイライラする
- 胸やお腹が張る
- 肩こりや頭痛がある
- 冷えとのぼせが同時にある
などがみられることがあります。
中医学では、心の状態と月経周期は切り離せないものと考えます。
強いストレスが続いたあとに月経が遅れたり、来なくなったりした場合には、「気」の巡りにも目を向けます。
3.腎虚(じんきょ)
中医学における「腎」は、西洋医学の腎臓だけを指すものではありません。
成長、発育、老化、生殖機能、ホルモンバランスなどを支える生命力の源と考えられています。
腎の働きが弱った腎虚では、
- 初潮が遅い
- 月経周期が不安定
- 無排卵や無月経
- 卵胞が育ちにくい
- 腰や膝がだるい
- 夜間の排尿が多い
- 耳鳴り
- 冷え
- 疲れやすい
などがみられることがあります。
卵巣機能低下、早発卵巣不全、加齢に伴う月経周期の変化などでは、腎虚の考え方を取り入れることがあります。
女性のリズムを整える三つの基本
女性の月経や妊娠に関わる身体を整えるために、中医学では次の三つを大切にします。
- 養血(ようけつ)
- 活血(かっけつ)
- 補腎(ほじん)
養血
不足している「血」を補い、身体を養うことです。
月経量が少ない、月経が遅れる、顔色が悪い、疲れやすいなど、血虚の傾向がある方に取り入れます。
活血
滞っている血の巡りを整えることです。
月経痛、月経血の塊、肩こり、頭痛、手足の冷えなど、血瘀の傾向がある方に取り入れます。
補腎
成長や生殖機能を支える「腎」の働きを補うことです。
無排卵、無月経、卵巣機能の低下、月経周期の乱れなどでは、年齢や体質を確認しながら補腎を考えます。
同じ無月経でも、血虚が中心の方、ストレスによる気滞が強い方、腎虚が関係している方では、必要となる漢方の考え方が異なります。
養血を代表する生薬「当帰」
養血を考えるうえで、代表的な生薬の一つが「当帰」です。
当帰はセリ科の植物で、薬用には根の部分を用います。
独特の甘く深い香りを持ち、古くから女性の月経、妊娠、出産、産後などに関わる漢方処方へ配合されてきました。
中医学では、当帰には、
- 血を養う
- 血の巡りを整える
- 月経を整える
- 身体を温める
- 腸を潤す
などの働きがあると考えられています。
ただし、当帰を単独で使用すれば、すべての月経不順や無月経が改善するというものではありません。
その方の体質に合わせて、気を補う生薬、血を巡らせる生薬、腎を補う生薬などと組み合わせて用いることが大切です。
血を養う食べ物
普段の食事では、
- なつめ
- 黒きくらげ
- にんじん
- トマト
- ほうれん草
- ラム肉
- 赤身の肉
- 黒ごま
- 卵
などを、身体を養う食材として取り入れることがあります。
中医学では、赤や黒など色の濃い食材を「血」と結びつけて考えることがあります。
例えば、ほうれん草の根元にある赤い部分も、捨てずに料理へ取り入れてみてはいかがでしょうか。
「美」という漢字は「羊」と「大」からできています。
大きく立派な羊を美しいものとしたなど、漢字の成り立ちには諸説ありますが、羊は古くから人々にとって大切な食材でした。
食事だけで十分に身体を整えることが難しい場合には、体質を確認したうえで、当帰を配合した漢方薬を選択肢として考えます。
当帰の名前にまつわる昔話
ここで、少し一休みしましょう。
当帰の名前の由来にはさまざまな説がありますが、今回は、私がこれまで教わり、皆さまにお伝えしてきた昔話をご紹介します。
昔、中国のある村に、薬草採りを仕事にしている父親がいました。
ところがある日、父親は山の中で猛獣に襲われ、亡くなってしまいました。
その息子である青年も、やがて父親の仕事を継ぎ、薬草採りになりました。
青年は結婚していましたが、ある日、薬草を探すために山へ入り、そのまま3年間も帰ってきませんでした。
妻は夫の帰りを信じて、ずっと待ち続けました。
しかし、いくら待っても夫は帰ってきません。
妻は夫を待ちわびるあまり、強いストレスを抱え、ついには月経が来なくなってしまいました。
そして、夫はもう亡くなったのかもしれないと諦め、別の人と再婚することを決めました。
ところが、なんとも間の悪いことに、そのタイミングで青年が山から帰ってきたのです。
青年は、自分の妻が再婚することを知りました。
妻を責めることはせず、山で採取してきた「ある薬草」を、かつての妻のもとへ置いて立ち去りました。
妻がその薬草を煎じて飲んでいたところ、少しずつ血色が良くなり、元気を取り戻していきました。
そして、昔話では、止まっていた月経が戻り、無排卵や無月経も整い、その後、子どもにも恵まれたと伝えられています。
夫は、
「当(まさ)に帰るべきだった」
この言葉から、女性の「血」を養えたとされるその薬草は、「当帰(とうき)」と呼ばれるようになったというお話です。
もちろん、これは当帰の名前の由来として伝えられている昔話の一つであり、実際の治療結果を示すものではありません。
しかし、当帰が古くから女性の月経や妊娠と深く結びつき、大切にされてきたことが伝わる物語です。
当帰は女性の「血」を支える生薬
当帰の「帰」という字には、帰る、元の場所に戻るという意味があります。
月経のリズムを本来の状態へ戻す。
血色を取り戻す。
冷えていた身体に温かさを取り戻す。
心身の元気を取り戻す。
そのような願いが「当帰」という名前に込められているようにも感じられます。
当帰は、次のような漢方処方に配合されています。
- 当帰芍薬散
- 四物湯
- 温経湯
- 加味逍遙散
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯
- 芎帰調血飲
- 婦宝当帰膠
ただし、同じ当帰が入っていても、それぞれの漢方薬は構成生薬や目的が異なります。
「当帰が入っているから、どれを飲んでも同じ」というわけではありません。
月経周期、月経量、冷え、胃腸、睡眠、ストレス、年齢、病院での検査結果などを確認しながら、その方に合うものを選ぶ必要があります。
婦宝当帰膠と「養血調経」
土屋薬局で女性の漢方相談に用いることが多いものの一つが、当帰を主成分とした婦宝当帰膠です。
中医学では「養血調経(ようけつちょうけい)」という考え方があります。
これは、女性の身体を養う「血」を補いながら、月経のリズムを整えていく考え方です。
例えば、
- 月経量が少ない
- 月経が遅れやすい
- 月経後に疲れる
- 顔色が悪い
- 手足が冷える
- めまいや立ちくらみがある
- 髪や肌が乾燥する
など、血虚の傾向がみられる場合に、養血調経を考えることがあります。
一方で、強い月経痛や月経血の塊がある場合は、血を補うだけでなく「活血」が必要になることもあります。
無排卵や卵巣機能の低下が関係している場合には、「補腎」を組み合わせることもあります。
婦宝当帰膠がすべての女性に同じように適しているわけではありません。
体質や症状、服用中のお薬などを確認し、漢方に詳しい医師や薬剤師へ相談することが大切です。
無月経は当帰だけで考えないことが大切です
無月経には、さまざまな原因があります。
- 妊娠
- 強いストレス
- 急激な体重減少
- 過度な運動
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 甲状腺機能の異常
- 高プロラクチン血症
- 卵巣機能の低下
- 早発卵巣不全
- 薬の影響
- 更年期に伴う変化
などが関係することがあります。
そのため、無月経を「血が足りないから」と自己判断し、当帰だけで対処することはおすすめできません。
妊娠の可能性がある場合は、まず妊娠検査薬などで確認しましょう。
月経が3か月以上来ていない場合や、月経不順が長く続いている場合には、婦人科を受診して原因を確認することが大切です。
病院での検査や治療を基本にしながら、漢方では体質に合わせた身体づくりをお手伝いします。
土屋薬局の無月経・月経不順の漢方相談
土屋薬局では、無月経や月経不順という症状だけで漢方を決めることはありません。
ご相談では、
- 初潮の年齢
- 最後に月経があった時期
- 月経周期と月経量
- 基礎体温
- 排卵の有無
- 冷え
- 睡眠
- 胃腸の調子
- 体重の変化
- 運動量
- ストレス
- 病院での検査結果
- 現在服用しているお薬
などを丁寧にお伺いします。
そのうえで、
- 血を養う「養血」
- 血の巡りを整える「活血」
- 気の巡りを整える「理気」
- 胃腸を支える「健脾」
- 生殖機能を支える「補腎」
などから、その方に必要な身体づくりを考えていきます。
まとめ|当帰の昔話が伝える女性と「血」の関係
当帰は、女性の「血」を養う代表的な生薬として、長い年月にわたり大切にされてきました。
今回ご紹介した昔話では、夫の帰りを待ち続け、ストレスから無月経になった女性が、夫の残した薬草によって元気を取り戻します。
そして、
「当(まさ)に帰るべきだった」
という言葉から、その薬草が「当帰」と呼ばれるようになったと伝えられています。
この物語は、当帰が古くから、
- 女性の血を養う
- 月経を整える
- 血の巡りを支える
- 心身の元気を取り戻す
生薬として用いられてきたことを、親しみやすく伝えてくれます。
一方、無月経や無排卵には、ストレス、体重の変化、ホルモンバランス、卵巣機能など、さまざまな原因があります。
当帰だけですべてを解決しようとせず、まず病院で原因を確認し、そのうえで体質に合った漢方を取り入れることが大切です。
「月経が来なくなった」
「月経量が少なくなった」
「冷えや疲れがあり、血虚ではないかと感じる」
そのようなお悩みがありましたら、一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。
土屋薬局では、病院での検査や治療を大切にしながら、「がんばらせない漢方」でお一人おひとりの身体づくりをお手伝いします。
よくあるご質問(Q&A)
Q.当帰を飲めば無月経は改善しますか?
無月経の原因は一人ひとり異なるため、当帰を服用すれば改善すると断定することはできません。
妊娠、ストレス、体重減少、PCOS、甲状腺、プロラクチン、卵巣機能などを確認する必要があります。
まず婦人科で原因を調べたうえで、漢方では体質に合わせた身体づくりを考えます。
Q.当帰と当帰芍薬散は同じものですか?
同じものではありません。
当帰は一つの生薬です。
当帰芍薬散は、当帰をはじめ、芍薬、川芎、茯苓、白朮または蒼朮、沢瀉など、複数の生薬を組み合わせた漢方処方です。
Q.血虚と貧血は同じですか?
同じものではありません。
貧血は血液検査によって診断されます。
一方、血虚は、月経量、顔色、冷え、めまい、睡眠、皮膚や髪の状態などから考える中医学の体質です。
血液検査で貧血がなくても、血虚の傾向がみられる場合があります。
Q.月経が何か月来なければ病院を受診すべきですか?
妊娠の可能性がある場合は、まず妊娠の有無を確認してください。
一般的には、これまで月経があった方で3か月以上月経が来ていない場合には、放置せず婦人科を受診することが勧められます。
3か月を待たず、急激な体重減少、強い体調不良、頭痛、乳汁分泌などがある場合も早めに相談してください。
Q.婦宝当帰膠は誰でも飲めますか?
婦宝当帰膠は、月経量の減少、冷え、疲れ、顔色など、血虚の傾向がある方に用いることがあります。
ただし、すべての方に同じように適しているわけではありません。
体質、症状、妊娠の可能性、服用中のお薬などを確認し、医師や薬剤師へ相談してから服用することをおすすめします。
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土屋薬局の漢方相談
土屋薬局では、無月経、無排卵、月経不順、月経量減少、冷え、血虚、卵巣機能低下、妊活などの漢方相談を行っています。
山形県内はもちろん、全国からオンラインやお電話でのご相談も承っています。
お一人おひとりの体質や病院での検査・治療内容を丁寧にお伺いし、その方に合わせた漢方をご提案いたします。
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